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原子の構造 |
ボーアの量子論 |
電子の回転軌道 |
11、 ボーアの原子理論 |
自然界の岩石や鉱物を分解、融解などを繰り返すことで、純粋な鉄や錫などの金属が得られることから、物質には複数の化学元素が存在するに違いないという考えは、古くから知られていた。そして各元素は、これ以上分割出来ない究極の原子が複数集まり何らかの力関係により結合されたものではないかという考えに至る。その後観測技術も進歩し、定量的な測定が可能となるに従い、ラボオアジェやドルトンのような研究者も現れ原子の存在が少しずつ明らかになってくる。
<原子核の大きさ> ラザフォードの散乱実験では、α線を原子核に正面衝突した際、原子核の大きさはα線が原子核に最接近した距離よりも小さいことは明らかである。実験に於いてはその最接近距離R0は、 \[R_0=\frac{2Ze^2}{4\pi\epsilon_0E}=1.58\times 10^{-14} ..... (m)\] これより原子核の大きさは、1.58x10−14 メートルより小さいことが確認された。 ここでZ:原子番号、E:α粒子のエネルギー =5.3MeV、e:素電荷、ε0:真空中の誘電率。
水素のスペクトル線の波長に関する観測結果がオングストロームにより公表された。1884年バルマーは、オングストロームのスペクトル線の波長が簡単な規則で表わせることを発見する。これをバルマーの公式と言う。 \[\lambda =\left(\frac{n^2}{n^2-2^2}\right)B.....(n=3,4,5,6)\] ここで、λは波長。 B=3.6456x10−7 (m) |
ラザフォードの原子模型では、中心部に正の電荷を持った核が存在し、その周りを負の電荷を持った電子が回転しているというものである。また核の大きさも10−14 m 位であり、原子の大きさ(約10−10 m)に較べるとはるかに小さい。このことは原子の大きさは、電子の回転軌道の大きさで決まると捉えることが出来る。即ち原子核の周りを電子が高速回転していることになる。 また、マックスウェルの電磁理論より導いた「ラーモアの公式」によると、電荷を持った粒子が加速度運動した際は、電磁波を連続的に輻射し続けるというものである。電子が回転運動しているときの加速度は次の式で表わされる。 電荷+eの原子核の周りを質量m、電荷―eの電子が半径r、速度v、角速度ω(v/r)で回転している時、遠心力とクーロン力は釣り合っているので運動方程式は \[mr\omega^2=\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0r^2}\] となる。$\epsilon_0$;誘電率。よって加速度は \[r\omega^2=\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0mr^2}\] となり、電子は輻射エネルギーを連続的に放出し、速度エネルギーも減少し、ついには原子核に落下してしまう。しかし現実にはそのようなことはなく原子の大きさは安定状態を維持している。古典理論では何故原子が安定しているのかの説明が出来ない。 <ラーモアの公式> 荷電粒子が加速度運動する際、単位時間に輻射されるエネルギー Pは連続的に行われる。 \[P=\frac{e^2a^2}{6\pi\epsilon_0c^3}\] ここで、e:素電荷。a:加速度。ε0:真空中の誘電率。c:光速。 (注:本書ではこの公式の算出に関しては深く立ち入らない。) B、線スペクトルの問題 古典理論によると、放射の振動数は電子の回転数に等しい。この理論が正しいとすると、回転軌道の半径が小さいほど、ケプラーの法則(T2 = k・r3 。T:周期。k:定数。r:半径)により振動数の多い光波を放出することになる。電子は回転しながら光を放出し、落下するため、回転軌道の半径は小さくなり少しずつ振動数が増していくはずである。しかし実際の水素原子のスペクトル線はそのようなことはなく、安定した複数の線で観測される。 古典理論では、原子のスペクトル線が何故このような規則的な振動数の光を放出するか、その説明が出来ない。
(1)定常状態 原子核の周りを回転する電子の半径は連続的な値ではなく、飛び飛びの値しか許されていない。このような軌道を定常状態と呼ぶ。そしてこの定常状態の軌道を電子が回転するときは光を放射しない。 (2)振動数条件 電子は各定常状態に対応したエネルギー準位を有し、ある定常状態から別の定常状態の軌道に遷移するとき、そのエネルギー準位の差に相当する振動数の光を放射する。例えばエネルギー準位がE2 からE1 に電子が落下した際放射される光の振動数$\nu$は次式で表わされる。(hはプランク定数) E2 −E1 = h・$\nu$
(1)原子内の電子にはニュートン力学が適用できる。 (2)電子が回転する定常状態は、次の量子条件を満たさなければならない。 (軌道の周の長さ) x (運動量の大きさ)= プランク定数の整数倍 2$\pi$r mv = hn (n=1,2,3・・)。 n:軌道番号 (3)定常状態を運動する電子は古典論には従わず、加速度運動しても光を放射しない。光の放射は振動数条件にしたがって行われる。
(1)定常状態の軌道半径 原子核の周りを電子が半径rの円運動し、安定状態にある場合の遠心力とクーロン力との釣り合いの運動方程式は次式で表わされる。 \[mr\omega^2=\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0r^2}\] そして v=rω より \[\frac{mv^2}{r}=\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0r^2}\] また作業仮説(2)の量子条件より 2$\pi$r mv=hn この2式から半径rが求まる。 \[r_n=\left(\frac{\epsilon_0}{\pi me^2}\right)h^2n^2\] (n=1,2,3・・) (2)電子のエネルギー 古典論における電子の持つ全エネルギーEは、運動エネルギー:(1/2)mv2 と、位置エネルギー: \[\frac{-e^2}{4\pi \epsilon_0r}\] の和で表わすことが出来る。 \[E=\frac{mv^2}{2}+\frac{-e^2}{4\pi \epsilon_0r}=\frac{e^2}{8\pi \epsilon_0r}+\frac{-e^2}{4\pi \epsilon_0r}=\frac{-e^2}{8\pi \epsilon_0r}\] を得る。 この式のrに rn を代入して、 \[E_n=-\frac{me^4}{8\epsilon_0^2h^2n^2}\] この式が水素原子のn番目の定常状態における電子のエネルギー準位に相当する。そしてn=1のとき、基底状態と呼び、2,3・・を励起状態という。 (3)エネルギー準位 電子がエネルギー準位:Ej からEk の軌道に遷移するとき放射する光の振動数は、振動数条件より次のようになる。 \[\nu=\frac{c}{\lambda}=\frac{1}{h}\times \left(E_j-E_k\right)=\frac{me^4}{8\epsilon_0^2h^3}\times \left(\frac{1}{k^2}-\frac{1}{j^2}\right)\] この式は、kをm、jをnに置き換えると前記のリュードベリーの公式と完全に一致している。したがってリュードベリーの定数Rは \[R=\frac{me^4}{8\epsilon_0^2h^3c}=1.0973732\times 10^7・・・・m^{-1}\] となり、理論的に求めた値と実測値とが一致することが分かる。このことから、ボーアの作業仮説の正しさが証明された。 |
\[r_n=\frac{\epsilon_0}{\pi me^2}\times h^2n^2 ・・・(n=1,2,3,・・)\] で表わせる。ここで、n=1(基底状態)の場合の軌道半径r1を求めて見よう。 r1 = {(8.854 x 10―12 )(6.626x10ー34 )2 }/{3.141x(9.109x10−31)(1.602x10−19) 2 } = 5.293 x 10−11 m(メートル) このr1をボーア半径と呼ぶ。また、一般の原子の大きさに対しては下記の半径となる。 \[r_n=\frac{\epsilon_0}{Z\pi me^2}\times h^2n^2 ・・・(n=1,2,3,・・)\] Z:原子番号
ボーアにより有核原子模型の抱える問題点が解決され、その原子構造、大きさなども明らかになってきた。これは科学史上大きな功績であり前進である。しかしその発想が大胆で在るがゆえ新たな疑問点も幾つか存在する。例えば電子が定常状態を回転しているときは何故光を放射しないのか、ある定常状態から別の定常状態に電子が遷移する際、何故そのエネルギー準位の差に相当する振動数の光を放射するのかなど。
ここでは、現在知られているボーアの量子条件を別の角度、即ち9章で記したプランク単位系から観察するとどうなるかを考察していくことにしよう。
前述したようにボーアの原子論には新たな疑問点も幾つか存在する。例えば、 |
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