目次、記録 宇宙の真理  再現性の法則 宇宙の大気 大自然の秘密 古代ギリシャ哲学 エーテル仮説 マイケルソンの実験
分割/不分割の問題 熱力学  エントロピー 空洞輻射 プランクの公式 公理系 次元と単位 重力定数の研究
未知なる粒子  プランク単位系  ボルツマン定数  重力 光の転生 電気素量の算出 ボーアの原子理論 光の正体
ビッグバンの困難  相対性理論の誤解  元素の周期律表  一歩進んだ宇宙論 電磁気の歩み 電磁気基礎知識 マクスウェル方程式 電磁波は実在しない
回転軌道の法則  赤方偏移の真実 周期律表の探究  周期律表正しい解釈  真偽まだらな量子力学 波動 宇宙パワー 
ホームへ 前へ 次へ


熱素(カロリック)説  温度 
ボイル、シャルルの法則  カルノーサイクル 
熱力学の法則  エントロピー 
当量値 気体分子運動論
エネルギー等分配則  ボルツマンの関係式  

6、熱力学とエントロピー  

 ケルビンはジュールの法則における熱と仕事とは等価であり転換可能であると言う観測結果と、カルビーの可逆サイクルでの熱は決して失われることがないというカルビー理論とは互いに矛盾があることを指摘する。クラウジウスは、熱の原理には熱と仕事の等価性(エネルギー保存則)と高温から低温への熱の移動の際仕事が生み出されるという二つの原理があり、これ等の矛盾は「当量値」という形で定式化出来ることを説明する。そしてこの当量値をエントロピーと命名する。

6、1 フロギストン、カロリック説 

 熱とは何かという疑問は、大昔から大問題であった。物体と物体とを激しく擦ると温度が上昇する、物体によっては火を出し燃え上がる物もある。また冷たい水と、熱い湯とを混ぜ合わせると中間温度程度のぬるま湯になるが、そのぬるま湯を元の冷たい水と、熱い湯に戻すことは不可能である。熱に関する現象を挙げていたら切りがない。このような様々な現象から十七、八世紀の頃には、熱が移動する原因は熱素という重さの無い基本元素があり、その熱素が物体内部を移動し少量の時は冷たく、多量ある時は熱くなるのだと説明されていた。また物体が燃焼する原因は、物質内部にはフロギストン(燃素)が含まれており、そのフロギストンが物体内から失う過程であるという考えが主流であった。

6、1、1 フロギストン(燃素)説 

 ボイル(1627〜1691)は錫と鉛を溶かして出来た混合された金属灰が、もとの金属より重くなることを立証した。彼は様々な熱現象に対し、火と熱とは異なった物質であるという観念を抱いていたので、この現象に対し、火の粒子が金属と化合したためであろうと仮定した。この仮説はゲオログ・シュタール(1660〜1734)によってフロギストンと命名され、ラヴォアジェ(1743〜1794)がこの説を打破するまでの間、100年近く主流の座を占めることになる。
 燃焼現象に対し十八世紀後期まで、シュタールが提唱したと言われるフロギストン説が支配的理論で当時の人々は次のように捉え、その間違った原則に基づいて理論を構築していた。
 燃焼体の中には燃素(フロギストン)が含まれており、燃焼作用とはこのフロギストンが燃焼体から外に飛び出す時の現象である。例えば完全に燃やした後、その灰があまり残らない石炭などは多量のフロギストンを含んでいるとされた。又大気空気中の酸素は、フロギストンを含まない気体で、窒素はフロギストンに満たされた気体であると認識されていた。その為、酸素が多い気体はフロギストンが良く飛び出すので良く燃え、窒素を多く含む気体はこれ以上気体中にフロギストンが飛び出すことが出来ず、燃焼しないのだと解釈されていた。
 その当時、既に燃焼後の金属灰の重量が増すという事実が知られており、そのような矛盾が存在していたにもかかわらず、その事実には目を背ける事でフロギストン説は、誤った認識を維持したまま修正されることがなかった。そしてこの曖昧な理論に、明晰な実験事実と巧みな論理を組み合わせ、終止符を打ったのがラヴォアジェである。
A、反フロギストン説
  (1)ジョン・メイオー
イギリスの医者ジョン・メイオー(1643〜1679)は、次のような燃焼実験を行った。高さ10センチ位の桶の半分くらいまで水を入れ、中央に高さ10センチ程度の小型の台を固定し、その上面に燃えやすい物質を置く。次に透明で出来た高さ15センチ位のガラスのコップを逆さまにし、台が内部に入るよう設置する。この際ガラスのコップの内部と外部との水面が等しくなるようにする。このような状態でレンズを使用し燃えやすい物質に太陽光線をあてる。内部の物質は燃え、その後内部の水面が上昇する。
 メイオーは類似した実験を数多くこなし、このような現象に対し、その当時主流であったフロギストン説では、物質が燃焼した際フロギストンが飛び出すのであるから内部の水面が上昇することはありえない、従って正しく説明しているとはとても思えないとして、フロギストン説が誤りであることを指摘している。そして、空気の内部には物を燃やす微分子が含まれており、燃焼の結果その微分子が奪われ空気の容量が減少し、その減少した分量だけ内部の水面が上昇したのである、と全く正しく説明している。  しかし残念なことにメイオーのこの実験報告は、当時、燃焼過程が中心的研究であったにもかかわらず、あまり重要視されず注目も受けずに忘れられてしまう。更なる堅固な証明力が求められていたのである。
(2)ジャン・レー 
 フランスのレー(1575〜1645)は、一定量の錫を6時間燃焼すると重量が増加し、同様に鉛に対しても重量が増加することを確認した。この現象に関し「金属が空気と結合したためである」と解釈した。この当時は空気には重量が無いと公認されていたため、彼は次のように空気に重量がないという認識は間違いであることを指摘している。「重量の検査を天秤により測定した際、水の中で水の重量を測っても水の重量を知ることは出来ない、同様に空気の中で空気の重量を測っても観測されない」。
B、生命空気の発見 
 上記のようにフロギストン説を否定する幾つかの説が存在したにも拘わらず、フロギストン説は矛盾を抱きつつ100年以上正しいとして支配的理論の座を維持する。
**<注>   この誤った歴史的事実はまるで現代物理理論(ビッグバン理論、相対性理論、力の大統一理論)を連想させられる。人類科学は同じ轍を踏んでいるようである。何時までも間違った原則に基ずいた支配的理論である現代科学と呼ばれるものに固持するのではなく、少しでも早く「正しい物理の道」に軌道修正しなければならない。 **
 十八世紀に入り、ラヴォアジェは当時の化学界で支配的であったフロギストン説にはとらわれず、独自の解釈により燃焼の真の原因を究明しようと試みた。彼の行った巧みな測定と正確さ、及びその結果より予想される論理的鋭利さにより、燃焼過程は正しい解釈へと導きられて行く。
 その当時までの実験によると、鉛と錫を空気で満たしたフラスコに入れ密閉し、充分加熱すると、それらは重量を増した金属灰に転化すると言うものであった。ラヴォアジェは次のような精密実験を行い、この問題を解決して行く。
 正確に計量した錫を空気の充満したフラスコに入れ、それを完全に密閉し、全体の重量を正確に計量する。そして錫が充分熱せられるまで加熱する。冷却した後、全体の重量を計量したところその重量は以前と全く変化ないことが判明した。従来からのフロギストン(燃素)が燃焼すると、重量を増した化合物に転化するという説では、全体の重量も変化するはずである。次にフラスコの密閉を開くと、空気が入り込み全体の重量が増してきた。更に内部で生じた錫の灰を計量したところ、加熱前の錫の重量より増していた。そしてこの錫が増加した重量と、空気が入り込んできて増加した重量とが正確に一致するという結果を得る事が出来た。この事実から彼は、金属の燃焼過程は、「その物質と空気の一部とが化合し、その該当する重量分だけ化合物の重量も増加する」のだという解釈する以外いかなる説明も出来ないと断言した。
 その後様々な(呼吸に関する研究など)実験を繰り返した結果、ラヴォアジェは次のような結論に到達する。大気空気は、呼吸(燃焼)に適する空気と適さない空気とから成りその割合は、27:73の比である。そして呼吸に適した空気を「生命空気」とか「火の空気」などと呼んだが、後に「酸素」と名付けられる。このことによりフロギストン説は、完全に論破される。

6、1、2 熱素説(カロリック) 

 我々が感じる自然現象を、重量の側面から観察した場合、岩石や水、気体のような重さを持つ可量物体と、光や熱のように重さの無い不可量物体とに分けることが出来る。ここでは重量を持たない熱の基本的な知識に関し説明しておこう。
 熱に関する科学的研究の萌芽は、パスカル(1623〜1662)による空気圧の存在、ゲーリッケ(1602〜 )による空気ポンプの発明などによると言える。この発明により真空状態を容易に手に入れることが可能となり、これまで曖昧であった空気に重量が存在すること、真空中では音は伝播しないが光は伝播することなどが明らかとなってくる。
 また十六、七世紀の人々は、熱現象を説明するため色々な思弁や推論を試みる。 熱も微分子の種類の一部とみなし、特別な熱原子が存在し、その原子が少ない部分は冷たく、多い部分は熱い、又多い部分から少ない部分へその原子は移動する。ラヴォアジェも熱原子と捉え熱素と命名している。
(1)熱の振動説 
 ボイル(1627〜1691)は、釘を打つと、板の中に入って行く時はあまり熱くならないが、頭まで入ってしまった後叩くと非常に熱くなることから、釘の前進運動が金属内部の微粒子の運動に変化したものであると捉え、熱とは物質内部の微粒子の内部的運動と考えた。
又フック(1635〜1703)は、全ての物質は熱を持ち、完全に熱の無い物質は見いだせないことから、熱とは物質内部の微粒子の振動の結果であると考えていた。  ニュートンは、真空中でも熱が伝わる実験を行なった結果から、物質内部の微分子の振動がエーテル媒質を振動させ、空間を伝わり離れた別の物質の微分子を振動させるためだろうと述べている。しかしこれらは定性的、思弁的な面が多く、定量的に表現されたものではなかった。
(2)熱素説 
 一方、人々が熱の現象に興味を惹かれたのは、蒸気が色々な物を動かす事ができ、仕事に利用できることを知ってからである。その現象は、水流による仕事に類推できた。即ち上流の水が下に流れる際なす仕事と同様、熱を多く含んだ水蒸気が熱の少ない所に移動する際なす仕事であると理解された。前記のようなフックやニュートンの振動説が存在したにも拘わらず熱素説が主流となる。  この熱素説はラムフォードが大砲の中ぐり作業の際、作業を続ける限り熱が湧き出ること、及びジュールの法則が定式化されるまで信じられていた。
(3)温度の規定 
 空気を熱すると膨張することは古代から知られていた。  ガリレオは、その現象を利用して温度検器なる物を製作している。それは上端が球状をなし空気が入れられるようになっており、下方は細くて長い管で液体を入れられる。球状の部分を熱すると膨張し液体が移動することで温度を測ることができる。その後、アルコールの膨張に伴う温度計が製作されるが、使用される目盛はまちまちであった。 1695年ころ水の凝固点と融解点とを基準の目盛りにしたらよいのではないかという提案がなされる。その後改良が進み現在の温度計に至っている。
シャルルは気体の温度と体積の関係を調べている際、気体の種類によらず比例関係にあることを見出す。そして複数の気体に関する比例線をグラフにしたところ温度を下げていくと一点で交わることに気づく。これが絶対零度の発見である。
(4)潜熱と比熱 
 異なった温度の水を同量用意し、混合すると両者の中間の温度になることは既に知られていた。スコットランドのブラック(1728〜1799)は、同質量の氷(零度)と温度が異なる水とを混合した際、中間の温度になるはずであると考え実験を行った。しかし結果は、氷はかなり溶けたが温度計は零度のままであった。この結果に対し「融解する氷は多量の熱を吸収する」と述べている。そして彼はこの現象に対し、「潜熱」という言葉を使用した最初の人である。そしてブラックは氷の融解熱を単位質量当たり77〜78熱単位(現在では80カロリー)であると測定している。また彼は、水が蒸発する際の気化熱に関しても、その量を測定する実験を行っている。まず熱量を一定に与えられる環境においては、一定量で一定温度の水が完全に気化する時間が同一であることを確認し、その時間を測定することにより一定量の水が完全に蒸発するに要する熱量を算出する。同じような実験を繰り返し単位重量に対し450熱単位(現在では539.8カロリー)を得る。
   ブラックはまた融解熱から比熱を測定した最初の人である。同質量のことなった金属AとBを同温度にする。そして同量の氷を二つ別々の容器に入れ、それぞれに金属AとBを入れる。一定時間後金属は冷え氷の一部は融け水になる。その際Aに対する氷が1/2、Bに対する氷が1/4融けたとすると、AはBより2倍の熱量を含んでいることになる。そしてこの方法は後にラヴォアジェとラプラスにより利用される。彼らはまず「比熱」という言葉の定義を明確にする。<同一質量の同一温度の異なった物質を一度上昇するに要する熱量は同一ではない。単位質量の水を一度上昇するに必要な熱量を“1”と置くなら、種々の物体の単位質量を一度だけ上昇するに要した熱量は水の場合の何倍かで表現できる。比熱という言葉は、熱量のこの比の意味として解すべきである>。
(5)物質熱、輻射熱
 金属(鉄など)内の熱がゆっくり伝わることは知られていた。フランスのピクテ(1752〜1825)は、高熱した光らない金属球のそばに、そこから発した熱を反射させる凹面鏡を置き、その焦点に空気温度計を設置した。凹面鏡と温度計の距離は25メートル位あった。その中間に衝立を置き、熱が伝わらないようにした。そして衝立を除くと瞬時に温度計は上昇することを確認した。
 以上の現象から熱には、物質内部を伝わる物質熱と空間を伝わる輻射熱とが存在し、前者は微粒子から微粒子へゆっくりと伝わるが、後者は非常に速く伝わると説明している。
(6)寒物質 
熱物質には寒物質もあり、その2種類の微粒子の混合で、熱物質が寒物質より多い場合は熱いのだと言う考えもあった。
(7)熱の重量 
 熱に重量が存在しないことを巧みな実験により明晰化したのはラムフォード(1753〜1814)である。
二つの完全に同重量の大きいフラスコを用意し、その中の一つに大量の水を入れ、片方に同質量の水銀を入れた。そして非常に精密に測定可能な天秤の両端の腕に吊り下げ、その天秤は完全に釣り合いが保たれた。そして長時間高温の室内に放置しておいたが、釣り合いの状態に変化は生じなかった。次に室内の温度を大きく下げ、同じように長時間放置しておいた。
その当時、水と水銀の比熱は1000:33であることが知られていた。彼の予測では、温度を高温から低音に下げた際、熱を失う量は水銀に比べ水の方がはるかに大きいはずである。そのため天秤がどちらかに傾くはずである。しかし実際には変化が生じなかった。似たような実験を何度も試みたが結果は同じであった。このことから熱素は重さを持たない不可量物質であると結論付ける。
(8)熱が物質でない証明(ラムフォードの実験) 
 ラムフォードは大砲のなか繰り作業の監督をしていた。その際、大砲となか繰り盤との摩擦により、大量の熱を発生することを知っていた。そしてなか繰り盤の摩擦熱を利用し、冷たい大量の水を沸騰させる実験を行い、多数の人々を驚かした。その実験から特定の量の水を1℃だけ上昇するのに必要とする運動による仕事量の関係を調べたが、あまり正確なものではなかった。又運動を続ける限り、熱が無尽蔵に生成されることを実証した。そのことから、熱とは物的実体(熱素)であるという従来の考えに固執した場合、無限量に伝達することが出来ないことは明らかである。故に熱とは運動が転化したものであるという結論に導く。しかしこの提唱も当時の科学水準より進み過ぎており、あまり取り上げられる事がなかった。
(9)ジュールの法則 
十九世紀に入り、イギリスのジェームス・ジュール(1818〜1889)は、水車を用いた精密な装置と正確な観測事実から、熱量と力学的な仕事とは等価である事を証明した。そして熱量Qと仕事Wの間には、次の関係があることを示した。     W=J・Q      (Jは仕事当量)
 このことにより熱素説は完全に否定され、力学的仕事(エネルギー)により熱が発生することが確認され、熱とは運動エネルギーが転化したものである事が一般にも認識されるようになる。

6、2 熱力学の基礎知識 

6、2、1 熱力学系 
(1)孤立系、外界(環境)
   熱力学では議論を明瞭化するため、外界とか孤立系という言葉がよく用いられる。これは部屋の中とか家の外という意味だと思えば分かりやすい。孤立系とは部屋全体が断熱材などにより完全に密閉されており空気や熱、仕事などの出入りが全く無い系である。したがって孤立系に於いては内部の状態は完全に維持される。孤立系でない一般の空間が外界である。
(2)熱平衡 
 同形をした二つの系AとBとがあり、且つ全系AとBは孤立系の場合、Aの気体の温度がBより高かったとする。その一面を接触させると初期にはAとB内の気体温度は異なるが、接触部分から熱の移動が行われ暫らく後には、AもBも同じ温度となる。このような状態をAとBは熱平衡状態に在るという。

6、2、2 温度 

(1)カ氏温度 
 ガリレイが1714年に空気温度計を発明する。その後多くの温度計が考案されるが温度目盛りは様々であった。1717年ファーレンハイトにより氷が融ける温度を32F(カ氏)、沸点212Fで、その間を180等分するカ氏目盛りが採用される。
(2)セ氏温度 
 1742年、セルシウスが180等分ではなく、100等分する温度目盛りを提案する。このセ氏温度目盛り(℃)が現在でも広く採用されている。
(3)ケルビン絶対温度(熱力学的絶対温度) 
 気体の温度と体積と圧力の研究からそれらの間には気体の種類によらず一定の比例関係が存在することが明らかとなってくる。即ち、体積を一定に保ち温度を下げていくとそれに正比例して気圧が下がり、気圧を一定にして温度を下げていくと体積が縮小していく。理想気体なるものを想定した場合、温度を下げていくとある温度で、気圧がゼロ、または体積がゼロとなる。ケルビンは物質に依存しない熱力学の法則から導き出せる体積がゼロとなるその点を絶対温度と定義するよう提案する。1848年のことである。
 約100年後の1954年に水の三重点(気体と液体と固体とが同時に存在し熱平衡に在る状態)の温度を 273.16K(絶対温度) と定めSI(国際基本単位)に採択される。
(4)理想気体
 実在する気体は、気体の種類、温度により液体または固体となり、ボイル・シャルルの法則が成立しなくなる。しかし、自然界には存在しないある特別な気体を想定し、論考を進めていくことは物理学の発展に欠かせないことである。そこで如何なる場合も熱力学の法則が成り立つ理想気体なるものを仮定し議論を進めることになる。
 分子論的には、実在する微分子には分子間の相互作用があるが、この相互作用を無視することで理想気体に近ずく。

6、2、3 相転移   

 実在する物体は、気体、液体、固体の三様態を現す。周囲の圧力を一定に保ち温度が高いときは気体、低くなってくると液体、更に低くなると固体となる。
 このように気相が液相に、液相が固相に変化することを相転移したという。固体が液体に変わる温度を融解点、液体が気体に変わる温度を沸点と呼ぶ。
 周囲の圧力が低いほう(山の頂上など)が沸点や融点の温度は低くなる。

6、2、4 内部エネルギー  

 ある孤立系の状態を考える際、外界からなんら仕事Wや熱量Qが作用しない場合は、孤立系の内部の状態は変化しない。この内部の状態の全エネルギーを内部エネルギーUと呼ぶ。したがって内部エネルギーは次の式で表わされる。
   U=W+Q  
 そしてこの内部エネルギーは、外界から仕事が加えられたとき、又は熱量が与えられたときのみ内部エネルギーは変化し次の式で与えられる。
   ΔU=ΔW+ΔQ 
 内部エネルギーを微視的な面、即ち原子、分子の視点から捉えると、その孤立系内に存在する全微粒子の運動エネルギーの総和を表わすことになる。内部の気体がnモルの理想気体で、温度Tの場合の内部エネルギーは次式で表わされる。
   U=3/2 n・R・T=3/2 P・V    R:気体定数。

6、2、5 ボイル、シャルルの法則 

(1)ボイルは下端を密封した細長い管を用いて、その口の開いた上端から水銀を流し込む実験を行い、水銀の量が増すのに反比例して管内の空気の体積が小さくなることから、気体の圧力とその体積との相乗積は一定であるという認識を得た。これをボイルの法則と呼ぶ。
   P・V=一定    P;気体の圧力、V;体積 
 これより、P1・V1=P2・V2 。
(2)更に、フランスのシャルル(1746〜1823)は、気体の圧力を一定に保った際の温度の変化にともなう体積の変化を調べる実験を行い、気体の温度の上昇に比例して体積も膨張することを見出し、しかも気体の種類には依存しないことを発見した。これをシャルルの法則と呼ぶ。
  V=V0・T/273.15 。 V/T=V0/273.15=一定。 V;温度Tでの気体の体積、V0;0℃での体積、T;絶対温度
 これより、V1/T1=V2/T2 
(3)状態方程式
 上記のボイルとシャルルの法則をまとめると、圧力と体積の積は温度に比例する、という関係式を得る。この式は理想気体を想定した際には成立する。この式を理想気体の状態方程式と呼ぶ。
 P・V=nRT  R;気体定数(8.3145 JK−1mol−1)、n;モル数
(4)状態量
 熱力学では、対象を巨視的に見て議論する場合と、微視的(分子論的)に見た場合とがある。巨視的に取り扱う際の物理量には温度、圧力、体積、内部エネルギーなどがあり、これ等の物理量を状態量と呼ぶ。そしてこの状態量を使用して表わした関係式を状態方程式という。

6、2、6 比熱  

(1)比熱の定義 
 異なった物質、例えば水と鉄の同一質量mを同一温度だけ上昇させるのに要する熱量は同一ではない。物質の種類によりまちまちである。1グラムの水を1℃上昇するに要した熱量を1カロリーと定め、1グラムの各物体の温度を1℃上昇するに要した熱量をbカロリーであった場合、その物体の比熱Cは b/1 で表わされる。即ち、水の場合b=1であるから比熱は”1”となる。また各物質の比熱は C<1 であることが知られている。
 ある物体の温度をdT上昇するに必要な熱量dQは次式で与えられる。
  dQ=C・dT。
 SI単位系では、物質1Kgを1K(絶対温度)上昇するに要する熱量と定めている。水の場合は4.186(JKー1)である。
(2)定積比熱 (Cv)
 同じ物質であっても(特に気体)、温度の変化により体積や圧力が変化するため、与える条件により比熱の値も相違が生ずる。孤立系内の全気体の質量をm、体積Vを一定にした際1度上昇させるに要した熱量(dQv)を定積比熱Cvと呼ぶ。このとき内部の圧力は高くなる。
   dQv=Cv・m・dT 
 気体の場合は、1分子の質量に全分子数を掛けた値が全質量mに相当するから、mはモル数nで置き換えることが出来る。
     Cv=(dQv/n・dT)、 ここでモル数n=1の時、Cv=(dQv/・dT)。  dQv=Cv・dT。
 理想気体に於いては、pV=nRT が成立する。また、V=一定であるから、 p/T=nR/V=K(一定)。
    p1/T1=p2/T2=K 
(3)定圧比熱 (Cp)
 圧力を一定にし、1℃上昇するに要した熱量を定圧比熱(Cp)と呼ぶ。このとき内部の体積は増加する。増加した体積をdVとすると、外部にした仕事は p・dV となる。従って加えた熱量Qpは、体積V内の温度を1度上昇するに要した熱量(これはdQvに等しい)と外部にした仕事を加算した量となる。よって次式で表わされる。
 dQp=dQv+p・dV=Cp・dT 
<気体定数Rとの関係>
 理想気体nモルの状態方程式は、p・V=n・R・T で与えられる。
 従って圧力が一定の時、体積の変化dVと温度の変化dTの関係は
   p・dV=n・R・dT。
 また   Cp・dT=Cv・dT+p・dV=Cv・dT+n・R・dT  であるから
    Cp=Cv+n・R。 よってn・R=Cp−Cv  を得る。
 上記の Cp=Cv+n・R をマイヤーの関係式と呼ぶ。
 定圧に於いてはp=一定であるから、V/T=nR/p=K。
   V1/T1=V2/T2=K  
(4)等温過程 
 内部の温度を一定に保ち体積を変化した際、圧力は変化するが内部エネルギーは変化しない。従って dQ=dW で、外部から加えた熱がそのまま外部へする仕事になる。また温度は変化しないのであるから、pV=nRT=一定(K) p=K/V である。
 よって  dW=pdV=(K/V)dV  。
 これをV1からV2まで積分すると、 W=K・ln(V2/V1)。
 K=pV=一定 より 
  p1・V1=p2・V2=K 
  W=p1・V1・log(V2/V1)=p2・V2・log(V2/V1) 。
(5)断熱過程 
 外界と熱の出入りが全く無く、その内部エネルギーは力学的仕事のみに依存する過程である。このとき理想気体の内部エネルギーdUは
  dU=Cv・dT である。また dU=dQ+dW、dQ=0、dW=ーpdV  より
  Cv・dT=0ーpdV、  dT=ー1/Cv・pdV=−(n・R・T/V・Cv)dV 。
 また、定圧変化のマイヤーの関係式:Cp−Cv=n・R を代入して
 Cv・dT+(CpーCv)/V・T・dV=0
 両辺をCv・Tで割ると、 1/T・dT+{(Cp/Cv)−1}/V・dV=0。
 ここで、 Cp/Cv=γ。 とおき、このγを断熱指数と呼ぶ。
 そして、理想気体に於いてはこのガンマーは定数である(分子運動論:6、4のF を参照)から上式は積分でき、
  logT+(γー1)・logV=一定。 TVγー1=K  を得る。
(6)エンタルピー 
 工業や生産部門においては、熱と仕事の関係が重要となる。
 理想的なピストン内の気体の内部エネルギーUは次式で表わされる。
    U=W+Q 。 またその変化は、dU=dW+dQ である。  よって、 dQ=dU−dW。
 定圧変化の場合、外部にする仕事はーp・dV であるから、dQp=dU+p・dV
 この式から分かるように、外部から加えた熱量に対し、どの程度の仕事がなされるか定量的に算出することが出来る。そしてdQpをHに、dUをU、dVをVに置き換えた式
   H=U+pV  を定義すると便利である。
 この式の状態量Hをエンタルピーと呼ぶ。即ちエンタルピーとは、定圧変化の際に与えられた熱量が、内部エネルギーと外部にした仕事の総和に等しいということである。

6、2、7 カルノーサイクル 

A、熱機関
   熱機関とは、気体(空気や水蒸気)が温度により、膨張したり収縮したり、また高温から低温に移動するなどの自然現象を利用して、仕事をさせる機械である。実際の熱機関では、高温の熱源T2から熱Q2が供給され、仕事W1をし、余計な熱Q1が低温熱源(ヒートシンク)に捨てられる。また仕事W1をする際に一部の熱Q3が散逸され、最終的には仕事W2として利用することになる。Q3=0の時、可逆的であり最終的な仕事はW2=W1となる。Q3=0でない時、非可逆的であるという。



                     図:6−1 熱機関、カルノーサイクル

B、熱効率
 熱機関で重要なことは、与えた熱源に対して実際なす仕事がどの程度大きいかである。熱効率とは、その与えた熱源の量に対し、最終的になした仕事の量で表される。熱力学はこの熱効率の研究を出発点とし進展していく。

   熱効率(η)=仕事の出力(W2)/熱量の入力(Q2)
   また一サイクルでの内部エネルギーに変化は無いのであるから、
   内部エネルギー=全熱量+全仕事=0 より、Q2ーQ1ーW2=0、  W2=Q2―Q1  
   故に熱効率は: η=1― Q1/Q2
C、カルノーの循環過程 
 サディ・カルノー(1796〜1832)は、熱機関に関する動力の循環過程の概念を確立する。カルノーはその当時まだ熱素説に基づいていたため、水力と同様、熱機関による仕事の効率は高温熱源と低温熱源の温度差が重要だと考えていた。
 図6−1 について説明すると、A図は高温熱源の温度がT2 、低音熱源の温度がT1 、熱機関に供給される熱量Q2、排出する熱量Q1、ピストンが行う仕事W1、摩擦などにより消費する熱量Q3、熱機関が最終的に行う仕事W2である。Q3=0、W1=W2の時は可逆的である。
 B図のカルノーサイクルに於いては可逆過程、即ちQ3=0の場合である。
@ 1ー>2:体積V1が等温膨張で、熱源T2に接触され熱量Q2を得て体積V2に膨張し、仕事ーw1をする。
A 2ー>3:断熱膨張で、体積V2が熱源とは切り離され膨張を続け体積V3となり温度は高温T2から低温T1となる。このとき仕事ーwをする。
B 3ー>4:等温圧縮で、体積V3が熱源T1に接触され熱量Q1が奪われ体積はV4に収縮する。このとき仕事w をする。
C 4ー>1:断熱圧縮で、体積V4が熱源とは切り離され収縮を続け体積はV1となり温度は低温T1から上昇しT2となる。このとき仕事wをし、一サイクルは終了する。
<カルノーサイクルにおける熱効率>
 カルノーサイクルの仕事は外部にする場合はマイナス、外部からされる場合はプラスである。
 上記@の過程では、外部から熱量Q2を得て仕事ーw1をする。この時温度は変化しないので内部エネルギーの変化は0である。
   よって、Q2ーw=0   またボイルシャルルの法則 pV=nRT より、
  Q2=w1=∫V2/V1{1/V ・nRT }dV=nRT・ln(V2/V1)
 <注記>ここで ∫V2/V1 は、体積V1からV2までの積分である。
 同様に、 Bの過程では外部から仕事wが与えられ、熱量Q1を得る。そして等温変化であるから内部エネルギーは0である。
  よって、Q1+w=0   またボイルシャルルの法則 pV=nRT より、
  Q1=ーw=ー∫V4/V3{1/V ・nRT }dV=ーnRT・ln(V4/V3)=nRT・ln(V3/V4)
 また、熱効率η は η=1−Q1/Q2 で表わせるから、
 η=1−{nRT・ln(V3/V4)}/{nRT・ln(V2/V1)}=1−{T・ln(V3/V4)}/{T・ln(V2/V1)} 。
   そしてAの過程では、断熱膨張であるから  T・V(γー1)=一定。  であることを前記の断熱過程のとこで説明した。
  従って、Ta・Va(γー1)=Tb・Vb(γー1)=一定 、が成立する。よって Tb/Ta=(Va/Vb)(γー1)  
 Aの過程では、体積はV2からV3に、温度はT2からT1に変化するのであるから、VaがV2、VbがV3に該当し、TaがT2、TbがT1に当たる。  
 従って  T1/T2=(V2/V3)(γー1) を得る。
 次にCの過程では、断熱圧縮で温度は低温T1から高温T2に変化し、体積はV4からV1に変化する。
 従って、Aの場合と同様にして、T2/T1=(V4/V1)(γー1)
 この両式からT1とT2を消去し、 V1/V2=V4/V3 。
 従って、熱効率η の式は次式で表わせる。
   η=1−Q1/Q2=1−T1/T2 
  よって、 Q1/T1=Q2/T2=S(一定)。 
 可逆サイクルのときは、この式が導きだせる。非常に重要な式である。このSが当量値又はエントロピーと呼ばれることになる。

6、2、8 熱力学の法則  

(1)第0法則 
 系Aと系Bが熱平衡にあり、系Bと系Cが熱平衡にあるなら、系Aと系Cは熱平衡にある。即ち系Bが温度計の役目をし、物体Aと物体Cが熱平衡にあるかどうかを調べることが出来る。
(2)第一法則
 孤立系の内部エネルギーdUは、外界からなされる仕事dWと、系に出入りする熱量dQにのみに依存する。
   dU=dW+dQ 。
 ジュールの精密な実験により、外部からの仕事が熱に転換されることが明確化され、またその値が等価であることが示された。それにより、熱と仕事とは互いに転換可能でエネルギーが保存されることが証明された。故に第一法則のことを、エネルギー保存の法則とも呼ぶ。
 微視的な側面即ち分子的な視野から見ると、孤立系内の内部エネルギーとは個々の分子の振動(運動)エネルギーの総和のことである。また温度とは、1/2・m・v=1/2・Kb・T の式より明らかなように、分子の速度のみに依存する。従って内部エネルギーとは、系内の分子の数が一定なら、温度のみ即ち分子の速度のみで決定されるのである。
 外界から熱が加えられると系内の分子の速度が増加され温度が高くなる。熱が奪われると分子の速度が遅くなり温度が低くなる。また外界から仕事が加わると、仕事の運動エネルギーが分子に伝達され、分子の速度が速くなり温度が高くなる。外部に仕事をすると分子の運動エネルギーが奪われ、速度が減少し温度が低くなる。
(3)第二法則
 熱に関する現象の中でも、主に熱機関の熱効率に関する法則、熱が高温から低温に流れる方向性がある特性、お湯と冷水を混合すると中間温度になり元には戻らない特性などに関した法則をいう。
a)可逆と不可逆過程 
 熱機関などでは、高温と低温の熱源を用いてピストンを上下運動することが出来る。このような過程を可逆サイクルと呼ぶ。そして金属内を高温から低温に熱が流れた際、元の高温と低温には戻すことが出来ない。このような過程を不可逆であると呼ぶ。
b)トムソン(ケルビン)の原理 
 仕事は全て熱に変えられるが、熱を全て仕事に変えることが出来ない。永久機関は不可能である。海水の熱を動力に変えて走る船などは不可能である。
c)クラウジウスの原理 
 何もしないで低温物体から高温物体に熱を移動することは出来ない。
また、金属内の熱の移動は不可逆である。
d)エントロピー :S 
 可逆サイクルに於いては、温度に対する熱効率は全て等しい事から、エントロピーが一定であることが導かれる。
   S=Q1/T1=Q2/T2 
e)エントロピー増大の法則 
 現実の過程は全て不可逆的である。それ故エントロピーは常に増大に向かう。
(4)第三法則
 絶対零度におけるエントロピーはゼロである。ネルンスト(1864〜1941)の定理という。
  

6、3 エントロピー(entropy) 

6、3、1 エネルギー保存則 

A、力の衝撃(力積)と保存 
   力に関する科学的考察の代表的な功績としては、第一にギリシャ時代に活躍したアルキメデスの梃子の原理を上げることができる。更に16世紀に入るとケプラーによる惑星軌道が楕円であることの発見、ガリレオの慣性の概念、デカルトの運動量とその保存、これ等から導きだされたニュートンの力の法則などがあげられる。
 デカルトは、物と物が衝突する際の多くの実験を繰り返し、「宇宙における運動の量は常に一定である」と言う。また質量と速度の相乗積は、時間と力の相乗積に等しい。
  m・v = f・t 。 なる関係式を導く。これはデカルトの大きな功績である。  ここで、m:質量、v:速度、f:力、t:時間。
そして彼は、この運動量を「力の衝撃」(力積)と呼んだ。
 ホイへンスは単振り子の実験から、「任意の物体が重力によって動き出すとき、振り子の高さは運動を始める前の高さより上に行くことは無い」という原理を見出す。更に彼は、二つの同一物体が衝突する際の現象に対し、一方が静止した物体aに、他方の物体bがある速度で衝突した際、衝突後bが静止し、aは同じ速度で運動を始めること、またaとbが異なった速度で衝突した際は、互いに速度を交換することなどから、完全弾性体の衝突において「運動に関する力の総量は変化しない」と総括する。これが後のエネルギー保存則につながる。
 ライプニッツはデカルトの運動量に異議を唱え、衝突実験ではなく、落下法則の観点から仕事の量を測定する方法を採用する。物体をある速度で真上に投げ上げた際、上昇する高さは質量と初速度の二乗の相乗積に比例するという結果を得る。そこから彼は、
m・v = f・h 。  v:初速度 、 h:高さ。
を仕事能率の式として提唱する。そして彼は、この質量と速度の二乗の相乗積を「活力」と呼ぶことになる。また「生ける力」と「死せる力」という概念を用いる。これは現代的には、運動エネルギーと位置エネルギーに該当している。
 ニュートンは、活力の保存則に関しては殆んど寄与していない。彼はデカルトの保存則を否定し、「物体を起動するための原理と、運動を保つための原理」の二つの原理が必要であると述べているに留まる。保存則に対しては関心が薄かったようで多くは述べていない。
同時代のダーニエル・ベルヌイは言う「物体同士の衝突の際、完全弾性でない時、活力の総和の一部が失われるように見えるのは、その活力が物体内部に閉じ込められるのであって失われるのではない。自然はいかなる場合も、活力の保存が成立する」
B、エネルギーの定式化 
 デカルトやライプニッツの時代における力の保存則は、力学の分野に限定されていたためその後広くは語られないようになる。しかし熱、電気、磁気、光、重力などの自然界における様々な力の保存、不滅性及び転換という観念は、人々の間に根強く存在していた。
 そして仕事に関する観念は、蒸気機関などによる実用的な面から発展していくことになる。 蒸気機関の最初の発明はドニ・パパン(1642〜1712)の蒸気を利用したピストンに由来する。1800年頃には熱機関の働きから、力学的な仕事と熱的な量とが互いに転換することが知られるようになる。そして仕事は力を距離で積分したものであると定義がなされ、これまでの力学に関する活力に代わって、仕事の概念が重要視されてくる。更に、ジュールの法則などから熱と仕事の転換係数である「仕事当量」の概念が設けられ、転換関係の仕事当量を定量的に測定することが可能となる。そのことから自然界の諸力の間の転換において、エネルギー保存の原理が明らかとなってくる。
 熱力学の基礎をなす蒸気機関の循環過程の概念はカルノーにより1824年に「火の動力に関する考察」として公表される。
 彼の議論は、熱がカロリック(熱素)であるという認識から出発する。そして水が高いところから低い所に流れるように、熱素は高温の所から低温に流れるとき仕事をするのであり、従って温度差がなければ仕事はしない。またシリンダーで内部の空気を圧縮し体積を小さくすると気体の温度が上昇し、逆に体積を膨張すると温度が低くなるという事実、及び外部から熱を供給すると体積が増し、熱を奪うと収縮することなどから、高温と低温の二つの熱源を準備することで、気体の膨張と収縮を行いそこから仕事を取り出すサイクルを示した。このカルノーサイクルでは、熱による動力は二つの熱源の間で一定の熱素が落下することで得られ、その後同量の熱素が低温から高温の熱源に移動することで一サイクルを終えるもので、この循環過程で熱素の保存は維持され可逆的なものであった。しかし彼の議論は、定性的なものに留まり定量的な議論に乏しかったためか、あまり一般には普及されることがなかった。
 カルノーサイクルを数学的に定式化し、圧力と体積の関係をグラフ化し熱素が保存されることを明確化したのは、クラペイロン(1834年)の功績である。更にクラペイロンはこのサイクルにおける熱効率は、低温の気体の方が高温の気体よりも良いという熱的性質を明らかにする。このグラフ化が多くの研究者の注目を集め、後のクラウジウスやケルビンなどの研究につながる。
C、エネルギーの保存則  
 1842年、ローベルト・マイヤー(1814〜1878)は、「熱の仕事当量」に関する論文を公表する。その中で彼は、一定の容積の下で気体の温度を一度上昇するに要した熱量がaであるとき、一定の圧力pの下で一度上昇するには熱量a+bが必要であることを述べ、この加算されたbは、外部になした仕事即ち圧力pと体積が膨張し分銅が移動した距離hとの積で表すことができ、この b=p・h を熱の仕事当量として算出出来ると説明している。この考えが定積比熱、定圧比熱の研究につながる。
 カルノーサイクルの場合は動力の原因を高温から低温への熱素の移動に因るとし、その際系全体としての熱の消費は行われないとしたのに対し、マイヤーは仕事が熱に転換されることを示し、仕事に転換した祭、熱が消費することを認めている。この点においてカルノーとは大きな相異がある。
 また彼は容器に冷たい水を入れ、その容器を激しく振ると内部の水の温度が上昇することに気がついた。そして彼は言う「一定の重量の物体を落下させたとき、一定の水を1度上昇させるには、どの程度の高さが必要かを測定する必要がある」。即ち熱の量と仕事の量とを測定することで変換の際の当量値を定量的に導きだすことが出来るというのである。
 更に彼は運動が熱に変換するには、運動が運動をやめなければならないと言う。これまで実態のない仮説的な「力」という概念を物質と同じように捉えるべきだと考え、力は原因であると捉える。この力は物を動かしたり、温度を上げたりする原因であり、質的に転換したとしてもその量は永久不滅である。例えば静止した物体に上方に力を与えると、運動し上昇する。固定した板の上に乗せると静止する。この場合その物体は上昇に要した力を、潜在的な力として蓄えており(今日で言うポテンシャル・エネルギー)、決して力が消滅したのではないと述べている。
 一方同時代に於いて、ジュールもマイヤーと似たような認識に辿りついていた。そして、その考えを量的に測定する実験をくりかえしていた。その最中マイヤーの論文を知ることになる。
 ジュールはマイヤーの論文からでは、加えた力学的仕事に対しどの程度の熱量に変化したのか未定であり、またどのような方法で実験したかも述べられていないと批判する。そして消費した仕事量に対し、発生する熱量を精密に測定できる装置を自ら考案し、実験することになる。その結果、1グラムの水を1℃上昇する際に必要とする力学的エネルギーは4.186ジュールという値を得る。
 この実験は、力学的な仕事が消費された時には、それと厳密に等しい量の熱が得られることを証明しており、仕事の量と熱の量とは等価であり共に転換可能であることを主張している。そして熱とは運動の一様態であることを示しており、完全に熱素説を否定することになる。ジュールは仕事が熱に転換する際の理論を定式化したのである。
 そしてジュールは言う「宇宙に於いて秩序が保たれているのは、諸力の転換と不滅性によるものであって、このことが自然の自己充足性を証明している」。
D、永久機関の否定 
 ヘルムホルツは質量mの物体が高さhから落下し祭 m・g・hの仕事をし、物体の持つ活力は、1/2(m・v)であり、それぞれ大きさが等しいことを述べ、前者を張力、後者を活力と呼んだ (g:重力、v:速度)。そして両者の総和は一定不変であるという、力の保存の法則を提唱する。後に張力は位置エネルギー、活力は運動エネルギーと呼ばれる。
しかし電気、運動、熱などの力の転換や保存に関しては、数学的、概念的な曖昧さがあり、力が不滅で転換可能であることは認めつつ、それらが等価であることを意味するものではなかった。
 ケルビンはジュールの法則から仕事と熱が等価で共に転換可能であることから、これまで曖昧であった諸力の保存に代わって、各力の転換過程に対しても常に普遍的に存在するエネルギーの保存則を物理学の第一義的な概念にすべきであることを提案する。
 そしてエネルギーが静力学と動力学という二つの種類に分けられることを述べる。高い所にある物体、燃える物体、帯電した物体などは静力学的エネルギーを蓄積しており、運動する物体、光や熱が通過している空間などは、動力学的エネルギーを蓄えている。この用語が後にポテンシャル・エネルギーと運動エネルギーに代えられた。
 またランキンは、1855年ごろ発表した論文で「エネルギー」という用語に対し、仕事、物体の運動、光、熱、電気、その他、互いに転換可能な同じ単位で測ることの出来る量であると説明する。

6、3、2 当量値  

 w.トムソン(ケルビン)は、1847年オックスフォードでジュールと出会った。そこでジュールの法則を知ることになる。ジュールの論文では、「熱と仕事とは等価であり互いに転換可能である」というのである。これは熱が消費されることを示唆している。しかしカルノー理論では熱機関の可逆的サイクルにおいて仕事を生じた際、熱は保存され消失することがないとされており、両者の間に明らかな矛盾があることに驚かされた。  ジュールの精密な実験では、力学的仕事が熱に転換され且つ等価であることを確実に示している。しかし熱が仕事に転換し消失することはこの実験からは明らかでない。また固体中を高温部分から低温部分に熱が伝わる際、力学的仕事が一切生じないことも、ジュールの理論からは説明できない。一方熱素の落下により仕事が生み出される際熱は消費されないというカルノーの仮説に対しても、ジュールの実験結果とは矛盾しており、疑問を抱くようになる。
 クラウジウス(1822〜88)は、ケルビンの抱える複数の疑問に関し、高温から低温に熱が移動する際、仕事を生み出すと同時に、その一部が仕事に転換し熱の一部が消失されると解することも可能であるという。即ち、ジュールの理論をとるか、カルノーの理論をとるかではなく、両者が成立する解釈を構築すべきであることを説明し、ジュール理論からの「熱と仕事の等価性の原理」及びカルノー理論からの「高温から低温への熱の移動において仕事が生み出される原理」の二つの法則が必要なのであると主張する。後に前者を熱力学第一法則:エネルギー保存の法則、後者を熱力学第二法則:エネルギーの散逸、エントロピーの増加の法則と呼ばれるようになる。
 クラウジウスは、カルビーの循環サイクル(可逆サイクル)に於いては、高温に於ける熱効率がQ/T、低温に於ける熱効率がQ/Tで共に同一の値になる規則性があることに気付き、この値を「当量値」のかたちで定式化できることを提唱する。この定式化により仕事と熱量の転換過程に於ける数量を算出出来るというのである。即ち、高温から低温に熱が流れる際外部にする仕事の当量値は、与えた熱量を高温の絶対温度で割った値に等しく、また外部から与えたときの仕事の当量値は、この時生み出された熱を低温の絶対温度で割った値に等しい。また仕事は外部から与えた時と外部にした時とは符号が反対であるから、高温から低温に流れた時を正の当量値と定め、循環過程における当量値の総和はゼロになると言う。更に熱伝導により熱が移動し消費されてしまう場合もこの当量値が適用できるというのである。この際熱は高温から低温に流れ逆に流れることはなく、当量値は必ず増大し、そのため不可逆過程が起こる原因を説明している。
   当量値(S) = 熱量(Q) / 絶対温度(T) 。

 例えば、温度が100KでWの仕事をするに要した熱量を”10”とした場合、200Kで同じ仕事Wをするには、必要とする熱量が”20”であることが容易に計算できる。この定式化はその後の熱力学の発展に大きく寄与し、クラウジウスの優れた功績と言えるだろう。
 1865年、クラウジウスはこの当量値の用語に代わってギリシャ語の「変換」を意味する「entropy」を用いる。そして自然界において熱は高温から低温に移動するが、その逆はないので、エントロピーは常に増大に向かうことになる。
 クラウジウスは熱力学の二つの法則を「宇宙のエネルギーは一定である」、「宇宙のエントロピーは最大値に向かう」と表現する。

6、3、3 エネルギーの散逸   

 このように可逆サイクルの際の温度と熱量と仕事の関係は定式化できたが、他方不可逆サイクルに対して、ケルビンは次のように考えた。ジュールの理論から、熱は物質ではなく運動であることを認め、固体中での熱の伝導に於いて仕事がなされず熱が失われたように見えるのは、物体を構成する微小粒子の運動エネルギーに転換し散逸したのであって、決して消失したのではない。従って不可逆サイクルとは熱が高温から低温に流れる方向性を持つことを示しており、エネルギーは失われるのではなく、取り戻すことが出来ないだけであると力説する。しかしこのことは単に力説しただけであって証明したのではなく憶測の域を出なかった。
 クラウジウスも不可逆性は個々の分子の動力学的な運動によるものだと考え、分散という概念を取り入れることになる。それによると、分散とは物質中での分子の配置、配列、運動などにより測られるものであり、そのことによりエントロピーの物理的意味を説明しようとするものであった。そして彼は各分子を弾性球と仮定し、気体の温度は分子のエネルギーによって表わすことが出来る。また個々の分子の速度は全分子の平均速度を採用すべきであると主張する。
 更に、微細分子同士が相互作用し接近と反発を繰り返す際、個々の分子の作用圏を設け、その作用圏に他の分子が入り、互いに衝突が起こるまでの距離として、平均自由行路なる概念を導入する。この試みは粒子の衝突の際の一般的な方法を与えたが、分子運動論から見たエントロピーの解明には至らなかった。
 一方マクスウェルは、気体や物質内の分子の量は厖大な数で、それ等を個々の配置などで測ることは混乱をもたらすだけで、とても現実的ではなく容認出来るものではなかった。そしてこの問題は、気体分子の運動の統計的な理論から明確化すべきであると考えた。
 厖大な数の分子の速度は、分子により様々な速度を持っており、単純に平均速度を用いるべきではなく、各速度に対する分子の確率的な数で表わすべきであることを主張し、マクスウェルの速度分布則を公表する。
 それに拠ると今、断熱材で包囲された孤立系の箱を考えよう。そして箱の中央に隔壁を設けAとBの二つの部屋に分け、Aは高温の気体、Bは低温の気体とする。隔壁の一部に小さな弁を設け、気体分子の速度を知りえる「何者」かが存在すると考え、B中の速い分子が近ずいたら何者かが弁を開けA中に送り、A中の遅い分子が近ずいたらその分子をB中に送る。その操作を繰り返せば、Aの気体は更に高温となり、Bの気体は更に低温となる。(ケルビンはこの何者かを魔物と呼び、魔物のパラドックスとして知られるようになる。)しかし現実にはそのようなことがなく、Aの速い分子がBに移動し、Bの遅い分子がAに移動し最終的には熱平衡状態に達する。
 マクスウェルがこの例示から伝えたかった意図は、熱力学第二法則すなわちエントロピーを、厖大な数の分子に対し、個々の運動を動力学的方法で正しく説明することは不可能であることと、この問題は、統計的な計算方法を採用すべきであることを強調したかったのである。
 ボルツマン(1844〜1906)は、エネルギー等分配則が気体運動論の本質的な部分であることを主張し、クラウジウスと同様、動力学的観点からエントロピーの問題を考察し続けた。しかしマクスウェルの統計的な速度分布則に刺激され、エントロピー概念は動力学的方法では解決出来ないと考えるようになる。そして分子運動論に関する統計的方法によりエントロピーの不可逆性を定式化していく。
  S=Kb・logW   S:エントロピー  W:微視的状態の数。

6、3、4 エントロピーの定式化  

 クラウジウスによりエントロピー概念が確立され、その後多くの研究者によりその物理的特性や数学的取り扱いが議論されるようになる。そして現在では、概ね次のように一般化されている。
 エントロピーSは次式で与えられる。
    S=Q/T 。  Q:熱量。T:絶対温度。
A、熱機関
  (1)カルノー・サイクル(図6−1)で1−>2−>3 の過程では、熱源から熱量Q2が供給され、dQ=Q2=CdT 、 ここでCは比熱。
 また、温度がT2からT1に変化するのであるから、このときのエントロピー変化 dS1 は次式であたえられる。
   dS1=1/T・dQ=C/T・dT  。T2からT1までを積分して
    S1=C・log(T1/T2)。
(2)同様にして、3−>4−>1 の過程では、
    S3=C・log(T2/T1)。
(3)全体でのエントロピー変化 
    S=S1+S3=C・log{(T1/T2)(T2/T1)}=0
  この式から、可逆サイクルに於いてはエントロピー変化が生じないことが分かる。
B、氷の融解 
 m(Kg)の氷がある。この氷が全て融けて0℃の水になった際のエントロピーの変化は次のようになる。
 絶対温度は、T=273Kで一定である。与えられた熱量は、氷の融解熱:Lfに質量:m を掛けた値であるから、dQ=m・Lf。従ってエントロピーの変化dSは、
   dS=m・Lf/T。 
C、水の加熱 
 0℃(T)の水、m(Kg)がT℃まで加熱された。このときのエントロピー変化は次のようになる。
 温度は一定ではないが、熱量を温度で表わすことが出来る。
   dQ=m・Cw・dT。 ここで Cw:水の比熱。 エントロピー変化は、
   dS=∫Q2/Q1・1/T・dQ=∫/T・m・Cw・1/T・dT = m・Cw{log(T/T)}
D、水の混合 
 温度がTとTの同量(1Kg)水が別々の容器に入れてある。これを一つの容器に入れ混ぜ合わせると、水の量は2Kgとなり温度は中間の温度T=(T+T)/2となる。このときのエントロピーの変化を調べて見よう。水の比熱をCとする。
 Tの水がTになる時のエントロピーの変化Sは、
  S=∫/T・C/T・dT=C・log(T/T)  
 同様にTの水がTになる時のエントロピー変化Sは、
  S= ∫/T・C/T・dT=C・log(T/T)  
 従って、全体のエントロピー変化dS はSとSを加算すればよいから、
   dS=C・log{T/T}=C・log{1/4・(T+T/T}  。
  この式から、dSは必ず0以上なのでエントロピーが必ず増大することが分かる。

6、4 気体分子運動論 

 これまで説明してきた熱学の殆んどは、巨視的な現象、観察からの知識であった。しかし近年では原子、分子などの微粒子が実在することが明らかとなっている。本節では熱力学の現象を微視的な側面即ち、原子、分子から見た場合どうなるかを考察していこう。
A、原子、分子
(1)原子 
 熱力学では、直接原子を取り扱うことが少ないのでここでは基本的な知識だけを説明するにとどめておこう。
 現在知られている原子モデルは、中心に原子核が存在し、その周りを複数の電子が回転している。核は陽子と中性子より構成されプラス電荷を有する。陽子の数が素電荷の整数倍で、電荷の強さを表わす。陽子の数と同数のマイナスの電荷を有した電子が核の周りを回転運動し安定状態を保っている。陽子の数が1つの原子が水素で核の周りを1つの電子が回転している。原子核の大きさは約10−15メートルで、電子は核の周りを半径約10−10メートルで円運動している。
(2)分子 
 原子には多数の種類が存在し、ある法則に基ずいて結合し分子を構成する。熱力学では主にこの分子を主体に取り扱うことになる。
<単原子分子>
 分子が一つの原子で構成されている場合で、このとき分子は点と見做すことが出来る。そしてこの分子の運動を考えた際、x、y、z軸の3っの速度成分を必要とする。このとき分子の回転は変化しないと考えられるので無視できる。したがって自由度は3であると呼ぶ。
<2原子分子>
 分子が二つの原子で構成されている場合は、短い棒のように見做すことが出来る。したがってこのときは回転運動も考慮しなければならない。棒に平行な軸をxに選んだ場合は、yとz軸に対し回転したときは変化が生ずるが、x軸に回転しても変化しない。したがって2原子分子の自由度は、並列運動の3と回転運動の2を合わせた5となる。
<多原子分子>
   分子が多数の原子から構成されていた場合は非常に複雑な運動になるが、大体三つの原子の場合と同じと見做してよい。このとき回転運動は3軸に対し変化するから自由度は6となる。
B、圧力 
 運動する気体分子が壁に当たり反発する際、単位面積、単位時間当たりに壁が受ける全分子の力が圧力である。
 今一辺が長さLの立方体を考え、その内部で横(x軸)方向に運動している一つの分子だけに着目し、1分子が壁に衝突する際の力fを考えよう。そのとき分子の質量をm、速度をvとすると、その分子が壁に衝突し、跳ね返るときの一回の運動量の変化は、m・v+m・v=2m・v である。同一分子が再度同じ壁に衝突するまでの時間は t=2L/v であるから、一秒間に v/2L 回、壁に衝突することになる。従って壁が単位時間に受ける力の総和は、運動量の変化に衝突回数を掛けて、
   f=2m・v(v/2L)=m・v/L となる。
 実際には、気体の分子の数は一つではなく複数なので、その数をNとし、各分子のx方向への平均速度を v とすると、壁の面積に衝突する全分子の力の総和は F=N・f=N・m・v /L 
圧力は p=F/L  より、p=N・m・v /L=N/V・m・v  ここでV;立方体の体積。
 また、p・V=N・m・v 。
C、エネルギー等分配則、気体定数、ボルツマン定数 
 次に分子の速度と温度との関係を調べてみよう。
 前記の圧力pの式で、立方体の中の全分子数が、mol数: n=1とおくと、Nはアボガドロ数(N)で表せるから、ボイル・シャルルの法則より
  p・V=N・m・v =R・T  よって、 m・v =(R/N)・T
 一分子あたりのx方向への運動エネルギーは、 1/2・m・v =1/2・(R/N)・T =1/2・kb・T  を得る。
 (R/N)=kbと置き、ボルツマン定数と呼ばれる。kb=1.380x10−23 JK−1
 この式から気体定数とは、 R=m・v・N/T で表わされ、この式より単位温度における、N(1モル)の数の分子の総エネルギーであることが分かる。
   そして、各分子の運動可能な自由度は、一原子分子の場合x、y、z方向の3つあり、その平均速度は同じとみてよいから、分子の平均速度は
   v=v+v+v 、ここでv、v、vの平均値は同じと見做せるから、
   v=3・v  よって気体中の一分子の持つ運動エネルギーは
   1/2・m・v =3/2・kb・T  で与えられる。
 このように、分子の平均運動エネルギーが、一自由度あたり、1/2・kb・T に等しく分配されることを、エネルギー等分配則と言う。
 またこの式から、各分子の平均速度は絶対温度が1度上昇する毎に
   v=3kb/m 速くなることが分かる。
D、内部エネルギー 
 微視的に見た場合、孤立系内の全分子Nの持つ運動エネルギーの総和を内部エネルギーと見做すことが出来る。また1分子の運動エネルギーE1は
  E1=1/2・m・v である。
 したがって体積内の全エネルギー、即ち内部エネルギーUは
  U=N・1/2・m・v
 また、p・V=N・m・v=1/3・N・m・v 
 より、p・V=2/3・ U、 U=3/2・P・V=3/2・n・R・T。
E、定積比熱 
 体積を一定に保ち、外部から熱量dQvを加えた時、温度が1度上昇するに要した熱量を定積比熱Cvと呼ぶ。
    dQv=Cv・T
 またこのとき体積は変化しないので外界への仕事は0と見做してよい。したがって 内部エネルギーの増加は dU=dQv=Cv・T で且つ、各分子の運動エネルギーの増加dvに全分子数Nを掛けた値になる。
  dQv=N・(1/2・m・dv
 そしてエネルギー等分配則は、 1/2・m・v =3/2・kb・T であるから
  Cv・T=N・(3/2・kb・T) より Cv=3/2・kb・N=3/2・n・R  を得る。
 ここでkbは定数、mは分子の質量で一定であるから、内部の温度を1度(K)上昇するに必要な熱量は、分子の平均速度を上記の値(dv)だけ速くするに要する熱量と解することも出来る。また温度が上昇し分子の速度が速くなると分子が壁に衝突する回数が増すので、圧力が強くなり、ボイル・シャルルの法則(PV=nRT)が成立する理由も理解できる。
F、定圧比熱 
 圧力を一定に保ち、外部から熱量を加えた時、温度が1度上昇するに要した熱量を定圧比熱Cpと呼ぶ。   dQp=Cp・dT より、積分して Qp=Cp である。(T=1のとき)
 定圧で熱量を加えた場合、全分子の運動エネルギーの変化は定積過程の場合と全く同じである。しかし定圧であるため体積に変化dVが生ずる。その仕事分を加算しなければならない。よって必要な熱量は、全分子の運動エネルギーと仕事を加えた値になる。
   dQp=dQv+pdV  。
 そして、前記したように  dQv=Cv・dt 、pdV=nRdT である。
 従って dQp=Cv・dT+nRdT=Cp・dT 。
     Cp=Cv+nR  マイアーの関係式を得る。
 また、Cv=3/2・nR であるから、 Cp=5/2・n・R 。
<断熱指数:γ>
 定圧比熱を定積比熱で割った値を断熱指数と呼び、γ の記号で表わす。
 理想気体、1原子分子の時の断熱指数は次のような定数となる。
   γ=Cp/Cv=5/3 。
Z、ボルツマンの関係式 
 エントロピー概念を分子論的視野から考察するとどうなるかを見ていこう。
 まず初期条件として、体積V1の孤立系内部にN個の分子が存在する。この時各分子の占める領域v は均等であると考えることができる。そうすると体積V1の空間に1分子が配置できる数 w1 は、V1をvで割った値となる。 w1=V1/v 。
 次に体積だけを拡大し、V2にすると、分子の数Nと領域vは一定なので、w2=V2/ v 。
(1)分子の仕方の数 
 以上の条件で、各分子が配置する仕方の数は、セル数がm個の時、一つの分子が配置できる仕方の数Wは、W=m である。2個の分子の時は、 W=mxm=m 。n個の分子の時は、W=mn 。 この公式は数学の重複順列の問題としてよく知られている。
 これを利用して、配置の仕方の数を求めると、
   W1=w1N=(V1/v)N
   W2=w2N=(V2/v)N
 始めの状態と最後の状態とを比べ、その仕方の比は、
   W1/W2=(V1/V2)N
 両辺の log(対数)をとって、
   logW2ーlogW1=N・log(V2/V1)=n・Na・log(V2/V1)。 n:モル数、Na:アボガドロ数 。
(2)エントロピー(S)の変化 
 一方、エントロピー変化の面から考察すると次のようになる。
 始めの状態から最後の状態に移る際、体積が変化したが熱の出入りがなく、温度dTにも変化がないので、内部エネルギーdUにも変化ない。従って、
   dU=dW+dQ=0。dQ=ーdW 。 dW=ーp・dV 。
 以上よりエントロピー変化dSは、
  \[S2-S1=dS=\int_{V1}^{V2}\frac{1}{T}dQ=\int_{V1}^{V2}\frac{p}{T}dV\] 
 また ボイル・シャルルの法則から   p・V=n・R・T 。 p/T=n・R/V 。
\[S2-S1=\int_{V1}^{V2}\frac{nR}{V}dV=nRlog\frac{V2}{V1}=n Na Kblog\frac{V2}{V1}\]   Kb:ボルツマン定数。
 よって、S2ーS1=Kb・logW2ーKb・logW1  より、S=Kb・logW  を得る。
 
 この式から、空間内に気体が一定量存在し自然膨張した際は、仕方の数が増大しエントロピーもそれに比例して増加することがわかる。空間内に気体分子が無い場合は、空間がいくら膨張してもエントロピーは変化しない。
 以上が分子運動論から考察したエントロピー概念の物理的解釈である。





トップ へ
inserted by FC2 system