目次、記録 宇宙の真理  再現性の法則 宇宙の大気 大自然の秘密 古代ギリシャ哲学 エーテル仮説 マイケルソンの実験
分割/不分割の問題 熱力学  エントロピー 空洞輻射 プランクの公式 公理系 次元と単位 重力定数の研究
未知なる粒子  プランク単位系  ボルツマン定数  重力 光の転生 電気素量の算出 ボーアの原子理論 光の正体
ビッグバンの困難  相対性理論の誤解  元素の周期律表  一歩進んだ宇宙論 電磁気の歩み 電磁気基礎知識 マクスウェル方程式 電磁波は実在しない
回転軌道の法則  赤方偏移の真実 周期律表の探究  周期律表正しい解釈  真偽まだらな量子力学 波動 宇宙パワー 
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当量値 気体分子運動論
エネルギー等分配則  ボルツマンの関係式  

6、3 エントロピー 

6、3、1 エネルギー保存則 

A、力の衝撃(力積)と保存 
   力に関する科学的考察の代表的な功績としては、第一にギリシャ時代に活躍したアルキメデスの梃子の原理を上げることができる。更に16世紀に入るとケプラーによる惑星軌道が楕円であることの発見、ガリレオの慣性の概念、デカルトの運動量とその保存、これ等から導きだされたニュートンの力の法則などがあげられる。
 デカルトは、物と物が衝突する際の多くの実験を繰り返し、「宇宙における運動の量は常に一定である」と言う。また質量と速度の相乗積は、時間と力の相乗積に等しい。
  m・v = f・t 。 なる関係式を導く。これはデカルトの大きな功績である。  ここで、m:質量、v:速度、f:力、t:時間。
そして彼は、この運動量を「力の衝撃」(力積)と呼んだ。
 ホイへンスは単振り子の実験から、「任意の物体が重力によって動き出すとき、振り子の高さは運動を始める前の高さより上に行くことは無い」という原理を見出す。更に彼は、二つの同一物体が衝突する際の現象に対し、一方が静止した物体aに、他方の物体bがある速度で衝突した際、衝突後bが静止し、aは同じ速度で運動を始めること、またaとbが異なった速度で衝突した際は、互いに速度を交換することなどから、完全弾性体の衝突において「運動に関する力の総量は変化しない」と総括する。これが後のエネルギー保存則につながる。
 ライプニッツはデカルトの運動量に異議を唱え、衝突実験ではなく、落下法則の観点から仕事の量を測定する方法を採用する。物体をある速度で真上に投げ上げた際、上昇する高さは質量と初速度の二乗の相乗積に比例するという結果を得る。そこから彼は、
m・v = f・h 。  v:初速度 、 h:高さ。
を仕事能率の式として提唱する。そして彼は、この質量と速度の二乗の相乗積を「活力」と呼ぶことになる。また「生ける力」と「死せる力」という概念を用いる。これは現代的には、運動エネルギーと位置エネルギーに該当している。
 ニュートンは、活力の保存則に関しては殆んど寄与していない。彼はデカルトの保存則を否定し、「物体を起動するための原理と、運動を保つための原理」の二つの原理が必要であると述べているに留まる。保存則に対しては関心が薄かったようで多くは述べていない。
同時代のダーニエル・ベルヌイは言う「物体同士の衝突の際、完全弾性でない時、活力の総和の一部が失われるように見えるのは、その活力が物体内部に閉じ込められるのであって失われるのではない。自然はいかなる場合も、活力の保存が成立する」
B、エネルギーの定式化 
 デカルトやライプニッツの時代における力の保存則は、力学の分野に限定されていたためその後広くは語られないようになる。しかし熱、電気、磁気、光、重力などの自然界における様々な力の保存、不滅性及び転換という観念は、人々の間に根強く存在していた。
 そして仕事に関する観念は、蒸気機関などによる実用的な面から発展していくことになる。 蒸気機関の最初の発明はドニ・パパン(1642〜1712)の蒸気を利用したピストンに由来する。1800年頃には熱機関の働きから、力学的な仕事と熱的な量とが互いに転換することが知られるようになる。そして仕事は力を距離で積分したものであると定義がなされ、これまでの力学に関する活力に代わって、仕事の概念が重要視されてくる。更に、ジュールの法則などから熱と仕事の転換係数である「仕事当量」の概念が設けられ、転換関係の仕事当量を定量的に測定することが可能となる。そのことから自然界の諸力の間の転換において、エネルギー保存の原理が明らかとなってくる。
 熱力学の基礎をなす蒸気機関の循環過程の概念はカルノーにより1824年に「火の動力に関する考察」として公表される。
 彼の議論は、熱がカロリック(熱素)であるという認識から出発する。そして水が高いところから低い所に流れるように、熱素は高温の所から低温に流れるとき仕事をするのであり、従って温度差がなければ仕事はしない。またシリンダーで内部の空気を圧縮し体積を小さくすると気体の温度が上昇し、逆に体積を膨張すると温度が低くなるという事実、及び外部から熱を供給すると体積が増し、熱を奪うと収縮することなどから、高温と低温の二つの熱源を準備することで、気体の膨張と収縮を行いそこから仕事を取り出すサイクルを示した。このカルノーサイクルでは、熱による動力は二つの熱源の間で一定の熱素が落下することで得られ、その後同量の熱素が低温から高温の熱源に移動することで一サイクルを終えるもので、この循環過程で熱素の保存は維持され可逆的なものであった。しかし彼の議論は、定性的なものに留まり定量的な議論に乏しかったためか、あまり一般には普及されることがなかった。
 カルノーサイクルを数学的に定式化し、圧力と体積の関係をグラフ化し熱素が保存されることを明確化したのは、クラペイロン(1834年)の功績である。更にクラペイロンはこのサイクルにおける熱効率は、低温の気体の方が高温の気体よりも良いという熱的性質を明らかにする。このグラフ化が多くの研究者の注目を集め、後のクラウジウスやケルビンなどの研究につながる。
C、エネルギーの保存則  
 1842年、ローベルト・マイヤー(1814〜1878)は、「熱の仕事当量」に関する論文を公表する。その中で彼は、一定の容積の下で気体の温度を一度上昇するに要した熱量がaであるとき、一定の圧力pの下で一度上昇するには熱量a+bが必要であることを述べ、この加算されたbは、外部になした仕事即ち圧力pと体積が膨張し分銅が移動した距離hとの積で表すことができ、この b=p・h を熱の仕事当量として算出出来ると説明している。この考えが定積比熱、定圧比熱の研究につながる。
 カルノーサイクルの場合は動力の原因を高温から低温への熱素の移動に因るとし、その際系全体としての熱の消費は行われないとしたのに対し、マイヤーは仕事が熱に転換されることを示し、仕事に転換した祭、熱が消費することを認めている。この点においてカルノーとは大きな相異がある。
 また彼は容器に冷たい水を入れ、その容器を激しく振ると内部の水の温度が上昇することに気がついた。そして彼は言う「一定の重量の物体を落下させたとき、一定の水を1度上昇させるには、どの程度の高さが必要かを測定する必要がある」。即ち熱の量と仕事の量とを測定することで変換の際の当量値を定量的に導きだすことが出来るというのである。
 更に彼は運動が熱に変換するには、運動が運動をやめなければならないと言う。これまで実態のない仮説的な「力」という概念を物質と同じように捉えるべきだと考え、力は原因であると捉える。この力は物を動かしたり、温度を上げたりする原因であり、質的に転換したとしてもその量は永久不滅である。例えば静止した物体に上方に力を与えると、運動し上昇する。固定した板の上に乗せると静止する。この場合その物体は上昇に要した力を、潜在的な力として蓄えており(今日で言うポテンシャル・エネルギー)、決して力が消滅したのではないと述べている。
 一方同時代に於いて、ジュールもマイヤーと似たような認識に辿りついていた。そして、その考えを量的に測定する実験をくりかえしていた。その最中マイヤーの論文を知ることになる。
 ジュールはマイヤーの論文からでは、加えた力学的仕事に対しどの程度の熱量に変化したのか未定であり、またどのような方法で実験したかも述べられていないと批判する。そして消費した仕事量に対し、発生する熱量を精密に測定できる装置を自ら考案し、実験することになる。その結果、1グラムの水を1℃上昇する際に必要とする力学的エネルギーは4.186ジュールという値を得る。
 この実験は、力学的な仕事が消費された時には、それと厳密に等しい量の熱が得られることを証明しており、仕事の量と熱の量とは等価であり共に転換可能であることを主張している。そして熱とは運動の一様態であることを示しており、完全に熱素説を否定することになる。ジュールは仕事が熱に転換する際の理論を定式化したのである。
 そしてジュールは言う「宇宙に於いて秩序が保たれているのは、諸力の転換と不滅性によるものであって、このことが自然の自己充足性を証明している」。
D、永久機関の否定 
 ヘルムホルツは質量mの物体が高さhから落下し祭 m・g・hの仕事をし、物体の持つ活力は、1/2(m・v)であり、それぞれ大きさが等しいことを述べ、前者を張力、後者を活力と呼んだ (g:重力、v:速度)。そして両者の総和は一定不変であるという、力の保存の法則を提唱する。後に張力は位置エネルギー、活力は運動エネルギーと呼ばれる。
しかし電気、運動、熱などの力の転換や保存に関しては、数学的、概念的な曖昧さがあり、力が不滅で転換可能であることは認めつつ、それらが等価であることを意味するものではなかった。
 ケルビンはジュールの法則から仕事と熱が等価で共に転換可能であることから、これまで曖昧であった諸力の保存に代わって、各力の転換過程に対しても常に普遍的に存在するエネルギーの保存則を物理学の第一義的な概念にすべきであることを提案する。
 そしてエネルギーが静力学と動力学という二つの種類に分けられることを述べる。高い所にある物体、燃える物体、帯電した物体などは静力学的エネルギーを蓄積しており、運動する物体、光や熱が通過している空間などは、動力学的エネルギーを蓄えている。この用語が後にポテンシャル・エネルギーと運動エネルギーに代えられた。
 またランキンは、1855年ごろ発表した論文で「エネルギー」という用語に対し、仕事、物体の運動、光、熱、電気、その他、互いに転換可能な同じ単位で測ることの出来る量であると説明する。

6、3、2 当量値  

 w.トムソン(ケルビン)は、1847年オックスフォードでジュールと出会った。そこでジュールの法則を知ることになる。ジュールの論文では、「熱と仕事とは等価であり互いに転換可能である」というのである。これは熱が消費されることを示唆している。しかしカルノー理論では熱機関の可逆的サイクルにおいて仕事を生じた際、熱は保存され消失することがないとされており、両者の間に明らかな矛盾があることに驚かされた。  ジュールの精密な実験では、力学的仕事が熱に転換され且つ等価であることを確実に示している。しかし熱が仕事に転換し消失することはこの実験からは明らかでない。また固体中を高温部分から低温部分に熱が伝わる際、力学的仕事が一切生じないことも、ジュールの理論からは説明できない。一方熱素の落下により仕事が生み出される際熱は消費されないというカルノーの仮説に対しても、ジュールの実験結果とは矛盾しており、疑問を抱くようになる。
 クラウジウス(1822〜88)は、ケルビンの抱える複数の疑問に関し、高温から低温に熱が移動する際、仕事を生み出すと同時に、その一部が仕事に転換し熱の一部が消失されると解することも可能であるという。即ち、ジュールの理論をとるか、カルノーの理論をとるかではなく、両者が成立する解釈を構築すべきであることを説明し、ジュール理論からの「熱と仕事の等価性の原理」及びカルノー理論からの「高温から低温への熱の移動において仕事が生み出される原理」の二つの法則が必要なのであると主張する。後に前者を熱力学第一法則:エネルギー保存の法則、後者を熱力学第二法則:エネルギーの散逸、エントロピーの増加の法則と呼ばれるようになる。
 クラウジウスは、カルビーの循環サイクル(可逆サイクル)に於いては、高温に於ける熱効率がQ/T、低温に於ける熱効率がQ/Tで共に同一の値になる規則性があることに気付き、この値を「当量値」のかたちで定式化できることを提唱する。この定式化により仕事と熱量の転換過程に於ける数量を算出出来るというのである。即ち、高温から低温に熱が流れる際外部にする仕事の当量値は、与えた熱量を高温の絶対温度で割った値に等しく、また外部から与えたときの仕事の当量値は、この時生み出された熱を低温の絶対温度で割った値に等しい。また仕事は外部から与えた時と外部にした時とは符号が反対であるから、高温から低温に流れた時を正の当量値と定め、循環過程における当量値の総和はゼロになると言う。更に熱伝導により熱が移動し消費されてしまう場合もこの当量値が適用できるというのである。この際熱は高温から低温に流れ逆に流れることはなく、当量値は必ず増大し、そのため不可逆過程が起こる原因を説明している。
   当量値(S) = 熱量(Q) / 絶対温度(T) 。

 例えば、温度が100KでWの仕事をするに要した熱量を”10”とした場合、200Kで同じ仕事Wをするには、必要とする熱量が”20”であることが容易に計算できる。この定式化はその後の熱力学の発展に大きく寄与し、クラウジウスの優れた功績と言えるだろう。
 1865年、クラウジウスはこの当量値の用語に代わってギリシャ語の「変換」を意味する「entropy」を用いる。そして自然界において熱は高温から低温に移動するが、その逆はないので、エントロピーは常に増大に向かうことになる。
 クラウジウスは熱力学の二つの法則を「宇宙のエネルギーは一定である」、「宇宙のエントロピーは最大値に向かう」と表現する。

6、3、3 エネルギーの散逸   

 このように可逆サイクルの際の温度と熱量と仕事の関係は定式化できたが、他方不可逆サイクルに対して、ケルビンは次のように考えた。ジュールの理論から、熱は物質ではなく運動であることを認め、固体中での熱の伝導に於いて仕事がなされず熱が失われたように見えるのは、物体を構成する微小粒子の運動エネルギーに転換し散逸したのであって、決して消失したのではない。従って不可逆サイクルとは熱が高温から低温に流れる方向性を持つことを示しており、エネルギーは失われるのではなく、取り戻すことが出来ないだけであると力説する。しかしこのことは単に力説しただけであって証明したのではなく憶測の域を出なかった。
 クラウジウスも不可逆性は個々の分子の動力学的な運動によるものだと考え、分散という概念を取り入れることになる。それによると、分散とは物質中での分子の配置、配列、運動などにより測られるものであり、そのことによりエントロピーの物理的意味を説明しようとするものであった。そして彼は各分子を弾性球と仮定し、気体の温度は分子のエネルギーによって表わすことが出来る。また個々の分子の速度は全分子の平均速度を採用すべきであると主張する。
 更に、微細分子同士が相互作用し接近と反発を繰り返す際、個々の分子の作用圏を設け、その作用圏に他の分子が入り、互いに衝突が起こるまでの距離として、平均自由行路なる概念を導入する。この試みは粒子の衝突の際の一般的な方法を与えたが、分子運動論から見たエントロピーの解明には至らなかった。
 一方マクスウェルは、気体や物質内の分子の量は厖大な数で、それ等を個々の配置などで測ることは混乱をもたらすだけで、とても現実的ではなく容認出来るものではなかった。そしてこの問題は、気体分子の運動の統計的な理論から明確化すべきであると考えた。
 厖大な数の分子の速度は、分子により様々な速度を持っており、単純に平均速度を用いるべきではなく、各速度に対する分子の確率的な数で表わすべきであることを主張し、マクスウェルの速度分布則を公表する。
 それに拠ると今、断熱材で包囲された孤立系の箱を考えよう。そして箱の中央に隔壁を設けAとBの二つの部屋に分け、Aは高温の気体、Bは低温の気体とする。隔壁の一部に小さな弁を設け、気体分子の速度を知りえる「何者」かが存在すると考え、B中の速い分子が近ずいたら何者かが弁を開けA中に送り、A中の遅い分子が近ずいたらその分子をB中に送る。その操作を繰り返せば、Aの気体は更に高温となり、Bの気体は更に低温となる。(ケルビンはこの何者かを魔物と呼び、魔物のパラドックスとして知られるようになる。)しかし現実にはそのようなことがなく、Aの速い分子がBに移動し、Bの遅い分子がAに移動し最終的には熱平衡状態に達する。
 マクスウェルがこの例示から伝えたかった意図は、熱力学第二法則すなわちエントロピーを、厖大な数の分子に対し、個々の運動を動力学的方法で正しく説明することは不可能であることと、この問題は、統計的な計算方法を採用すべきであることを強調したかったのである。
 ボルツマン(1844〜1906)は、エネルギー等分配則が気体運動論の本質的な部分であることを主張し、クラウジウスと同様、動力学的観点からエントロピーの問題を考察し続けた。しかしマクスウェルの統計的な速度分布則に刺激され、エントロピー概念は動力学的方法では解決出来ないと考えるようになる。そして分子運動論に関する統計的方法によりエントロピーの不可逆性を定式化していく。
  S=Kb・logW   S:エントロピー  W:微視的状態の数。

6、3、4 エントロピーの定式化  

 クラウジウスによりエントロピー概念が確立され、その後多くの研究者によりその物理的特性や数学的取り扱いが議論されるようになる。そして現在では、概ね次のように一般化されている。
 エントロピーSは次式で与えられる。
    S=Q/T 。  Q:熱量。T:絶対温度。
A、熱機関
  (1)カルノー・サイクル(図6−1)で1−>2−>3 の過程では、熱源から熱量Q2が供給され、dQ=Q2=CdT 、 ここでCは比熱。
 また、温度がT2からT1に変化するのであるから、このときのエントロピー変化 dS1 は次式であたえられる。
   dS1=1/T・dQ=C/T・dT  。T2からT1までを積分して
    S1=C・log(T1/T2)。
(2)同様にして、3−>4−>1 の過程では、
    S3=C・log(T2/T1)。
(3)全体でのエントロピー変化 
    S=S1+S3=C・log{(T1/T2)(T2/T1)}=0
  この式から、可逆サイクルに於いてはエントロピー変化が生じないことが分かる。
B、氷の融解 
 m(Kg)の氷がある。この氷が全て融けて0℃の水になった際のエントロピーの変化は次のようになる。
 絶対温度は、T=273Kで一定である。与えられた熱量は、氷の融解熱:Lfに質量:m を掛けた値であるから、dQ=m・Lf。従ってエントロピーの変化dSは、
   dS=m・Lf/T。 
C、水の加熱 
 0℃(T)の水、m(Kg)がT℃まで加熱された。このときのエントロピー変化は次のようになる。
 温度は一定ではないが、熱量を温度で表わすことが出来る。
   dQ=m・Cw・dT。 ここで Cw:水の比熱。 エントロピー変化は、
  \[ds=\int^{Q2}_{Q1}\frac{1}{T}dQ=\int^{T1}_{T0}m・Cw\frac{1}{T}dT=m・Cw・log\frac{T1}{T0}\]
D、水の混合 
 温度がTとTの同量(1Kg)水が別々の容器に入れてある。これを一つの容器に入れ混ぜ合わせると、水の量は2Kgとなり温度は中間の温度T=(T+T)/2となる。このときのエントロピーの変化を調べて見よう。水の比熱をCとする。
 Tの水がTになる時のエントロピーの変化Sは、
\[S0=\int^{T2}_{T0}\frac{C}{T}dT=C・log\frac{T2}{T0}\]   同様にTの水がTになる時のエントロピー変化Sは、
\[S1=\int^{T2}_{T1}\frac{C}{T}dT=C・log\frac{T2}{T1}\]  従って、全体のエントロピー変化dS はSとSを加算すればよいから、
\[dS=C・log\frac{T2^2}{T0・T1}=C・log\frac{\left(T0+T1\right)^2}{4T0・T1}\]   この式から、dSは必ず0以上なのでエントロピーが必ず増大することが分かる。

6、4 気体分子運動論 

 これまで説明してきた熱学の殆んどは、巨視的な現象、観察からの知識であった。しかし近年では原子、分子などの微粒子が実在することが明らかとなっている。本節では熱力学の現象を微視的な側面即ち、原子、分子から見た場合どうなるかを考察していこう。
A、原子、分子
(1)原子 
 熱力学では、直接原子を取り扱うことが少ないのでここでは基本的な知識だけを説明するにとどめておこう。
 現在知られている原子モデルは、中心に原子核が存在し、その周りを複数の電子が回転している。核は陽子と中性子より構成されプラス電荷を有する。陽子の数が素電荷の整数倍で、電荷の強さを表わす。陽子の数と同数のマイナスの電荷を有した電子が核の周りを回転運動し安定状態を保っている。陽子の数が1つの原子が水素で核の周りを1つの電子が回転している。原子核の大きさは約10−15メートルで、電子は核の周りを半径約10−10メートルで円運動している。
(2)分子 
 原子には多数の種類が存在し、ある法則に基ずいて結合し分子を構成する。熱力学では主にこの分子を主体に取り扱うことになる。
<単原子分子>
 分子が一つの原子で構成されている場合で、このとき分子は点と見做すことが出来る。そしてこの分子の運動を考えた際、x、y、z軸の3っの速度成分を必要とする。このとき分子の回転は変化しないと考えられるので無視できる。したがって自由度は3であると呼ぶ。
<2原子分子>
 分子が二つの原子で構成されている場合は、短い棒のように見做すことが出来る。したがってこのときは回転運動も考慮しなければならない。棒に平行な軸をxに選んだ場合は、yとz軸に対し回転したときは変化が生ずるが、x軸に回転しても変化しない。したがって2原子分子の自由度は、並列運動の3と回転運動の2を合わせた5となる。
<多原子分子>
   分子が多数の原子から構成されていた場合は非常に複雑な運動になるが、大体三つの原子の場合と同じと見做してよい。このとき回転運動は3軸に対し変化するから自由度は6となる。
B、圧力 
 運動する気体分子が壁に当たり反発する際、単位面積、単位時間当たりに壁が受ける全分子の力が圧力である。
 今一辺が長さLの立方体を考え、その内部で横(x軸)方向に運動している一つの分子だけに着目し、1分子が壁に衝突する際の力fを考えよう。そのとき分子の質量をm、速度をvとすると、その分子が壁に衝突し、跳ね返るときの一回の運動量の変化は、m・v+m・v=2m・v である。同一分子が再度同じ壁に衝突するまでの時間は t=2L/v であるから、一秒間に v/2L 回、壁に衝突することになる。従って壁が単位時間に受ける力の総和は、運動量の変化に衝突回数を掛けて、
   f=2m・v(v/2L)=m・v/L となる。
 実際には、気体の分子の数は一つではなく複数なので、その数をNとし、各分子のx方向への平均速度を v とすると、壁の面積に衝突する全分子の力の総和は F=N・f=N・m・v /L 
圧力は p=F/L  より、p=N・m・v /L=N/V・m・v  ここでV;立方体の体積。
 また、p・V=N・m・v 。
C、エネルギー等分配則、気体定数、ボルツマン定数 
 次に分子の速度と温度との関係を調べてみよう。
 前記の圧力pの式で、立方体の中の全分子数が、mol数: n=1とおくと、Nはアボガドロ数(N)で表せるから、ボイル・シャルルの法則より
  p・V=N・m・v =R・T  よって、 m・v =(R/N)・T
 一分子あたりのx方向への運動エネルギーは、 1/2・m・v =1/2・(R/N)・T =1/2・kb・T  を得る。
 (R/N)=kbと置き、ボルツマン定数と呼ばれる。kb=1.380x10−23 JK−1
 この式から気体定数とは、 R=m・v・N/T で表わされ、この式より単位温度における、N(1モル)の数の分子の総エネルギーであることが分かる。
   そして、各分子の運動可能な自由度は、一原子分子の場合x、y、z方向の3つあり、その平均速度は同じとみてよいから、分子の平均速度は
   v=v+v+v 、ここでv、v、vの平均値は同じと見做せるから、
   v=3・v  よって気体中の一分子の持つ運動エネルギーは
   1/2・m・v =3/2・kb・T  で与えられる。
 このように、分子の平均運動エネルギーが、一自由度あたり、1/2・kb・T に等しく分配されることを、エネルギー等分配則と言う。
 またこの式から、各分子の平均速度は絶対温度が1度上昇する毎に
   v=3kb/m 速くなることが分かる。
D、内部エネルギー 
 微視的に見た場合、孤立系内の全分子Nの持つ運動エネルギーの総和を内部エネルギーと見做すことが出来る。また1分子の運動エネルギーE1は
  E1=1/2・m・v である。
 したがって体積内の全エネルギー、即ち内部エネルギーUは
  U=N・1/2・m・v
 また、p・V=N・m・v=1/3・N・m・v 
 より、p・V=2/3・ U、 U=3/2・P・V=3/2・n・R・T。
E、定積比熱 
 体積を一定に保ち、外部から熱量dQvを加えた時、温度が1度上昇するに要した熱量を定積比熱Cvと呼ぶ。
    dQv=Cv・T
 またこのとき体積は変化しないので外界への仕事は0と見做してよい。したがって 内部エネルギーの増加は dU=dQv=Cv・T で且つ、各分子の運動エネルギーの増加dvに全分子数Nを掛けた値になる。
  dQv=N・(1/2・m・dv
 そしてエネルギー等分配則は、 1/2・m・v =3/2・kb・T であるから
  Cv・T=N・(3/2・kb・T) より Cv=3/2・kb・N=3/2・n・R  を得る。
 ここでkbは定数、mは分子の質量で一定であるから、内部の温度を1度(K)上昇するに必要な熱量は、分子の平均速度を上記の値(dv)だけ速くするに要する熱量と解することも出来る。また温度が上昇し分子の速度が速くなると分子が壁に衝突する回数が増すので、圧力が強くなり、ボイル・シャルルの法則(PV=nRT)が成立する理由も理解できる。
F、定圧比熱 
 圧力を一定に保ち、外部から熱量を加えた時、温度が1度上昇するに要した熱量を定圧比熱Cpと呼ぶ。   dQp=Cp・dT より、積分して Qp=Cp である。(T=1のとき)
 定圧で熱量を加えた場合、全分子の運動エネルギーの変化は定積過程の場合と全く同じである。しかし定圧であるため体積に変化dVが生ずる。その仕事分を加算しなければならない。よって必要な熱量は、全分子の運動エネルギーと仕事を加えた値になる。
   dQp=dQv+pdV  。
 そして、前記したように  dQv=Cv・dt 、pdV=nRdT である。
 従って dQp=Cv・dT+nRdT=Cp・dT 。
     Cp=Cv+nR  マイアーの関係式を得る。
 また、Cv=3/2・nR であるから、 Cp=5/2・n・R 。
<断熱指数:γ>
 定圧比熱を定積比熱で割った値を断熱指数と呼び、γ の記号で表わす。
 理想気体、1原子分子の時の断熱指数は次のような定数となる。
   γ=Cp/Cv=5/3 。
Z、ボルツマンの関係式 
 エントロピー概念を分子論的視野から考察するとどうなるかを見ていこう。
 まず初期条件として、体積V1の孤立系内部にN個の分子が存在する。この時各分子の占める領域v は均等であると考えることができる。そうすると体積V1の空間に1分子が配置できる数 w1 は、V1をvで割った値となる。 w1=V1/v 。
 次に体積だけを拡大し、V2にすると、分子の数Nと領域vは一定なので、w2=V2/ v 。
(1)分子の仕方の数 
 以上の条件で、各分子が配置する仕方の数は、セル数がm個の時、一つの分子が配置できる仕方の数Wは、W=m である。2個の分子のの時は、 W=mxm=m 。n個の分子の時は、W=mn 。 この公式は数学の重複順列の問題としてよく知られている。
 これを利用して、配置の仕方の数を求めると、
   W1=w1N=(V1/v)N
   W2=w2N=(V2/v)N
 始めの状態と最後の状態とを比べ、その仕方の比は、
   W1/W2=(V1/V2)N
 両辺の log(対数)をとって、
   logW2ーlogW1=N・log(V2/V1)=n・Na・log(V2/V1)。 n:モル数、Na:アボガドロ数 。
(2)エントロピー(S)の変化 
 一方、エントロピー変化の面から考察すると次のようになる。
 始めの状態から最後の状態に移る際、体積が変化したが熱の出入りがなく、温度dTにも変化がないので、内部エネルギーdUにも変化ない。従って、
   dU=dW+dQ=0。dQ=ーdW 。 dW=ーp・dV 。
 以上よりエントロピー変化dSは、
\[S2-S1=dS=\int^{V2}_{V1}\frac{1}{T}dQ=\int^{V2}_{V1}\frac{p}{T}dV\]  また ボイル・シャルルの法則から   p・V=n・R・T 。 p/T=n・R/V 。
\[S2-S1=\int^{V2}_{V1}\frac{nR}{V}dV=nR・log\frac{V2}{V1}=n・Na・Kb・log\frac{V2}{V1}\]  Kb:ボルツマン定数。
 よって、S2ーS1=Kb・logW2ーKb・logW1  より、S=Kb・logW  を得る。
 
 この式から、空間内に気体が一定量存在し自然膨張した際は、仕方の数が増大しエントロピーもそれに比例して増加することがわかる。空間内に気体分子が無い場合は、空間がいくら膨張してもエントロピーは変化しない。
 以上が分子運動論から考察したエントロピー概念の物理的解釈である。





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