「ボーアの量子論」(11章)では、我々の宇宙の電子のような極小の世界では、その粒子の採りえる回転軌道には幾つかの規約が存在することを述べた。そしてそれらの規約にしたがって回転軌道は定まる。それが電子の回転軌道半径が量子数nの整数倍しか採り得ない原因である。
(1)遠心力による規約
回転物体には外側に遠心力がかかることはよく知られた事実である。そしてこの遠心力と中心に向かう力(重力や電気力)とが釣り合っているときその物体は回転運動を継続できる。原子核(プラス電荷)の周りを回転する電子の場合もこの法則が成立する。
電荷+eの原子核の周りを質量m、電荷―eの電子が半径r、速度v、角速度ω(v/r)で回転している時、遠心力とクーロン力は釣り合っているので運動方程式は
\[mr\omega^2=\frac{e^2}{4\pi\epsilon_0r^2}\] となる。$\epsilon_0$;誘電率。
(2)最小長の規約
長さに対してはプランク長という最小単位があり、その整数倍しか採り得ないことは既に述べた。回転軌道に関しても似たような規約が存在する。即ち回転軌道の粒子の運動量を円周(2$\pi$r)だけ積分した値が、プランク定数の整数倍でなければならないという規約である。「ボーアの量子条件」と呼ばれている。
*電子が回転する定常状態は、次の量子条件を満たさなければならない。
(軌道の周の長さ) x (運動量の大きさ)= プランク定数の整数倍
2$\pi$r mv = hn (n=1,2,3・・)。 n:軌道番号 。m:電子の質量。
(3)粒子質量による規約
@ 量子回転軌道番号の円周
粒子質量が未知なる始原粒子(mu)1個の場合の量子回転軌道番号をJ(1)としたときの円周は2$\pi$r=1Luである(Luは量子長)。10個の時は、J(10)で円周は2$\pi$r=10Luである。
A 電子の量子軌道番号
回転粒子が電子の場合、電子の未知なる始原粒子は<num>e個であるから、量子軌道番号はJ(<num>e)で、円周は2$\pi$r=<num>e・Luである。
即ち、電子軌道番号n=1とは量子軌道番号 J(<num>e)で円周は2$\pi$r=<num>e・Luに該当する。n=2とは量子軌道番号 J(2x<num>e)で円周は2$\pi$r=<num>e・Lux2 に該当する。
この規約により電子の回転軌道が飛び飛びの定常状態しか取り得ない理由である。
(4)軌道半径の規約
原子核の周りを回転する電子が取り得る回転球面の半径は、上記の(1)と(2)の規約より求まる。
\[r_n=\left(\frac{\epsilon_0}{\pi me^2}\right)h^2n^2\]
即ち、軌道半径は複数存在するが、基底状態をn=1 とすると、その整数倍の軌道以外取り得ない。即ち電子の回転軌道は飛び飛びの軌道以外ゆるされない。またn=1以外の軌道を定常状態と呼ぶ。そして規定された軌道を回転しているときは電子の速度は光速を越えないので光を放射せず、半永久的に回転し続ける。
(5)振動数条件に因る規約
電子の回転軌道はポテンシャルエネルギーを有し、ある上位の軌道から下位の軌道に遷移する際、そのエネルギー準位差に相当する振動数の光を放射する。
なぜ、その振動数の光を放射するのかに関しては 12、5、3 で解説した。
(6)球面内の質量制限の規約
同質量で同速度の粒子は、同球面内に回転軌道を有することになる。その際無限個の粒子が存在できるのではなくその数には制限がある。その数を超えると次の上位軌道番号の球面を回転することになる。
<<質量制限の規約>>
定常状態の同一球面上を同時に回転可能な電子の総数は不定ではなく、軌道番号1の遠心力の2倍まで同時回転が可能である。例えば軌道番号4の同球面上では、この軌道の電子一個の遠心力は、軌道1の 1/16 であるから、その2倍の32個が回転可能である。33個目の電子は次の軌道番号に所属することになる。詳しくは 11、3 で説明した。
(7)多電子原子の場合
水素原子の場合は、原子核が中心に1個、その周りに電子が1個回転しているという単純な形態であるから、その力学的方程式もシンプルで、解法も容易で正確ある。このような条件のもと、考察する場合を、熱学の理想気体に倣って、本書では理想原子と呼ぶことにする。
しかし、実際の原子は複数の陽子や中性子、電子が回転しており、さらには飛び飛びの回転軌道もあり、その力学的運動は複雑さを極め容易には解けない。原子だけでも電子軌道の解法は困難であるが、さらに分子の結合の際の電子軌道を解くとなるとほとんど不可能に近い。そのような解法の救世主として量子力学が用いられている。
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